はじめに

 多くの資格職では資格取得のために筆記試験が課されており、そのための座学が求められます。心理職の資格である「臨床心理士」「公認心理師」は共に筆記試験が課されており、臨床心理学のみならず基礎心理学や統計学の知識を問われ、公認心理師では関係法規の勉強も必要となりました。しかし、心理系の資格を基にしたカウンセラーという職種では、知識があるだけではとても務まりません。それどころか苦悩を吐露している相談者に教科書的な知識を提供することは時に非常に失礼な行為にもなり得ます。では、カウンセラーにはどのような能力が求められるのでしょうか。ご紹介したいと思います。(なお、特にカウンセリング場面を想定している時に「カウンセラー」、カウンセラーを含む心理職全般を想定する場合を「心理職」と分けています。)

傾聴の力

 心理職を目指す駆け出しの学生さんの多くが、この力をどのようにして身に付ければ良いのかと悩みます。話し上手と聴き上手は全くの別物です。特にカウンセラーの傾聴は相談者が自らの内面にある本当の気持ちに「気付く」というロジャースの視点が基本的な姿勢となります。駆け出しのカウンセラーの方で、一般的な面接時間の50分をこの姿勢を保って聴き続けられる方はなかなかいません。相手の話を聴きながらどこかで自分の意見を述べたい欲求に抗うことが出来なくなるのです。これは言い方を変えると、相手の話の重さに耐えられなくなるということです。つまり、カウンセラーになる最初の一歩は聴いて持ち堪えられる力を身につけることとも言えます。

見立ての力

 次に相談者の方の置かれている状況を把握したり、心身の状態を正確に捉える力が必要になります。これらを見立てと我々は言っており「相談者のことを正確に理解すること」と言えるでしょうか。特にカウンセラーも含む心理職は基本的な精神疾患を把握できることが求められており、最低限の知識は必須となります。これは学生の時の座学で必死で覚えることとなりますが、多くは机上の知識でしかないため、現場に出て知識と目の前の相談者の症状が結びつかない場合はほとんどです。そのため、上司やベテランの指導者の下で知識だけでなく体験として見立てる力を身につけていくことが必要となります。

 賛否あるだろうと思いながらも述べますと、見立てはかなりの程度が心理職の肌感覚に頼っている部分があるはずです。カウンセリングの場面であれば相手の気持ちを傾聴した上でカウンセラーの中で生じる何かが見立ての大きな手がかりとなっており、決して記述的な知識だけでは成り立たないものです。これはいつか別コラムで書きたいと思います。

人間関係を維持する力

 これはきっとカウンセラーだけの話ではないでしょう。営業マンも相当に苦労する部分だと思います。カウンセリングが人間同士の繋がりを前提にしている以上、カウンセラーが良識があり常識的であることは必須です。しかし、どうもこの職業を選ぶ人は変わった方が多く、良識と常識が世間一般とズレていることが多いように思います。要因の一つには、非常勤職が最初の職場となる方が多いため、正社員であれば新卒の時に徹底的に仕込まれる社会人として基礎研修を受ける機会に恵まれなかった人が多いという事情もあるでしょう。また、我々心理職全般に特徴的なことは、すぐに心理的な部分に目が向き、現実的な視点を軽視しがちなことも挙げられるでしょう。この点は心理職以外の職種の方と働くと本当に反省する点です。対人援助職であるからこそ自分の常識、良識の在り方に思いを巡らせる姿勢を持つことは大切ですし、これを意識し改めていく力が必要となります。

自分で居られる力

 また、カウンセラーならではの関係を維持するための力としては「自分で居られる力」が必要になります。我々は「自我の力」などと呼んでいます。相談者の方はとても深刻で抱えているだけでも辛い悩みを語られます。そうするとカウンセラーもとても苦しい気持ちになることでしょう。そのような状況でも相談者と二人三脚でカウンセリングを続けていくにはカウンセラーが相談者の苦しさに圧倒されてもカウンセラーとして機能できるように自分を見失わないことが求められます。言い方を変えれば、相談者の悩みに圧倒され一緒に苦しみの海に飲み込まれないための力です。十分に機能できるカウンセラーになるためには、自分をしっかりと保てる人物であることが必要であり、共揺れしやすいカウンセラーは教育分析などのより濃密な研鑽を積む必要があります。

外部の視点を取り入れる姿勢

コンサルテーション

 カウンセリングは1対1の関係で行われることが前提ですが、反面、他者の目が届きにくくカウンセラーの間違った見立てや方針の下で進んでしまう危険が常にあります。そこで、他の心理職に状況を伝えて客観的な意見をもらうコンサルテーションの機会が様々に用意されています。カウンセラーは独りよがりなカウンセリングとならないように、積極的に活用していく姿勢が求められます。

スーパーヴィジョン

 駆け出しのカウンセラーは一人で相談者の方にカウンセリングを提供することは難しいでしょう。また、新たな心理療法の視点を身に付ける時にも指導者は必要になります。心理職にはスーパーヴィジョンという制度があり別の心理職を訪問して定期的に指導を受ける慣習があります。この制度は先ほどのコンサルテーションの役割も担っており、相談者のことを複数の専門家で支える制度とも言えます。特に駆け出しのカウンセラーではスーパーヴィジョンの指導者(スーパーヴァイザー)の視点が今後の土台となっていくと言っても過言ではありません。

学会発表や論文執筆

 多くのカウンセラーが何らかの学会に所属しており、そこで個人が特定されない形に内容を変更した上でカウンセリングの経過を報告することがあります。学会や論文執筆では時に批判や酷評も含んだコメントが飛んできます。カウンセラーは大いに傷付きますが、カウンセリングに他者の目を入れて、相談者の益とするためにはこのような機会で客観的に意見をもらう姿勢が必要となる場合もあります。

教育分析

 教育分析とはカウンセラー自身が精神分析を受けることです。カウンセラーも人間ですから、様々な偏りや課題があります。そして、カウンセラーの特徴はカウンセリングの進行に良くも悪くも影響を与えます。これは人間同士の付き合いなので仕方ないところはありますが、カウンセラー自身が自分の特徴を自覚しておかないと、カウンセラー自身の課題と相談者の課題が混在してしまう危険があります。カウンセラーが教育分析を受け自己理解を深めることで、カウンセリングで起こっていることをより正確に理解することができますし、望ましくないことが生じた時に気付くことができるようになるのです。

 以上のような、カウンセリングに他者の目が入る機会は、相談者の方が安心してカウンセリングを受けることにも繋がりますので、もし、カウンセラーから許可を求めるような提案があったら、是非肯定的に捉えて頂きたいと思います。私見が多分に入りますが、カウンセラーでスーパーヴィジョンを受けたことがないという方のカウンセリングは相当に危険であると思います。同時に、この安全性を担保することが資格を保持しているということなのでしょう。

おわりに

 我々カウンセラーは上記のような力や姿勢を身に付けるために日々研鑽することが求められています。時に話を聴くだけと言われることもありますが、話を聴く準備をするために長い修行期間を要します。最近は様々な場面でカウンセリングマインドという言葉が使われていますが、おそらくは以上のようなカウンセラーの視点を持つことの大切さを指しており、裏返せばカウンセラーの存在が社会的に認知されてきている証拠なのかもしれません。

参考図書

 東山紘久(2000). プロカウンセラーの聞く技術. 創元社.

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