兄弟や親戚とは疎遠になることはあっても、親との関係はなかなか疎遠になることはないものです。物理的に距離を置いても保護者からの影響は生涯に渡って続きます。そのためか、この悩みの解決を目標にカウンセリングを受けに来られる方は少なくないように思います。

どのようなことが悩みとなるか

 一口に親との関係についての悩みと言ってもその内容は様々です。成人に絞っても、結婚後に配偶者と自身の親との関係に悩むことや、親の老後の過ごし方についての悩み、ギャンブルなどの親の問題行動についての悩みなどもあります。内容は多岐に渡りますが、今回は幼少期からの親子関係の影響が焦点となる悩みについてまとめています。

 カウンセリング場面では、保護者が過干渉で困るという話や、子育ての中で我が子に親と同じように振る舞ってしまうことに不安を感じていることを訴える方は少なくありません。自身が母となって、我が子との関係の中で自身の母子関係を振り返ることが必要と感じられる方が多い印象です。これは、日本の私設カウンセリングの場は、20~40歳代の方の利用が多いことも影響しているのかもしれません。

悩みの背景にあるもの

アダルトチルドレン

 最近はあまり聞きませんが、アダルトチルドレンという言葉があります。当初はアルコール依存症を持つ子供が大人の代わりとして年齢不相応に自立をすることを求められ、成人したのちに様々な症状に苦しんでいる状態を指していました。徐々にアルコール依存症に限らず、十分に機能できない親を持つ子どもを広く定義する言葉へと変化していったようです。心理学的には愛着障害との関連で考えることができます。不安を感じやすく繊細な面があるため、子育ての場面での戸惑いは相当なものとなります。また、自身が親となることで、親の気持ちを理解できるようにもなり、親を許したい気持ちと許せない気持ちの葛藤が激しく生じることも辛さの背景にあります。

罪悪感を伴う場合

 これは青年期に反社会的な行動などを起こしてしまい、そのことを成人になって後悔する中で生じます。もちろん謝罪ができれば良いのですが、何らかの事情でそれが行えない場合もあり、その場合は自分の中に後悔の気持ちを絶えず抱えることになります。自覚せずとも誰しもが親に対して反抗心が芽生えた時期があり、人によっては死んでしまえと思ったこともあるでしょう。これはあくまでも空想の話ですが、この空想が自身の行動により現実となってしまったと錯覚する心の働きがあり、このことが苦しみの背景にあることもあります。

憎しみを伴う場合

 これは虐待を受けてきた方などが当てはまります。先ほどのアダルトチルドレンの方にも該当する方がいらっしゃるでしょう。本来であればこの憎しみは当然のものなのでしょうが、親に憎しみを向けるということは人間にとって本能的にはタブーとなっているようです。というのも、親に憎しみを向けることはより強い制裁を予期させるものであるという空想が人類の根底にあるからです。これはフロイトのエディプスコンプレックスに関連した話ですが、本来十分に憎しむべき場面で憎めないことが引き起こす心への影響は少なくありません。

心理学の視点から

 心理学の歴史上、母子関係は創始者フロイトの時代より議論が続けられています。フロイトは子どもの反応は子どもの空想によるものだとしていましたが、フェレンツィ(Ferenczi. S)が現実に子どもの外傷はあり、心に大きな影響を与えることを指摘し始めるなどの動きが徐々に現れます。現代では虐待の事実は現実の出来事として報道されていますが、100年程前は空想で片付けられていたと考えると何とも恐ろしい。

 その後も様々な指摘はありましたが、現代において母子関係を語る上で重要な視点となるものはボウルビィ(J. Bowlby)の「愛着理論」でしょう。とても重厚な理論なので、別コラムで紹介をしたいと思っていますが、簡単に言うと「幼児期の養育者からの暖かい関わりが将来の気持ちの安定や、他者と親密な関係を築く礎となる」という内容です。また、「愛着理論」から派生した「内的作業モデル」では、幼児期の養育者の関わり方によって、その後の思考や意識の枠組み(スキーマ)が形成されること、故に養育者の関わり方によって物事を肯定的(悲観的)に捉えやすいスキーマが形成されるという指摘です。これらの理論は、今回のコラムと大きく関連する指摘でしょう。

カウンセリングで行うこと

 多くの場合、まず保護者との思い出を教えて頂く事から始める事になります。これは内容の良し悪しに関わらずです。おそらく語れない部分が出てくるでしょう。無理に言葉にする必要はありませんが、その部分がとても大切な意味を持っているはずですし、カウンセリングの中で話題にする日がいつか来るはずです。この振り返りの作業の多くは辛い時間となるはずです。当時の思い出を振り返りながら、その時に感じるはずであった気持ちを一つずつ確認し、再体験していく時間となります。本来感じるはずだった気持ち、本当は言いたかった言葉に気付くことができたら、これからの親子関係について考えていくことになります。この道は決してハッピーエンドとはならないかもしれませんが、過去の自分の気持ちを整理し前に進むためのきっかけとなるはずです。

親との関係を扱うことの難しさ

 世の中には親は子を慈しみ、子どもはすくすくと成長していくというイメージが当然とばかりに広がっています。これは親子関係の理想像でありますが、この理想を強いる倫理観は根強く、子どもを十分に愛せないこと、親を悪く言う事がタブー視されているように思われます。しかし、事実は理想通りとはいかず、言葉を飲み込んで生きることを強いられた方もいることでしょう。もし、親との関係について悩み苦しんでいるのであれば、カウンセリングの場を利用してみることをご検討頂きたいと思います。