はじめに

 今回は役所の嘱託職員や非常勤職員で働いている方に大きく影響する「会計年度任用職員」について解説します。心理職には行政の非正規職員として働いている方が多く、この改正がもたらす影響は無視できません。これは2017年の地方公務員法の改正によって生じた動きで、2020年4月より適用されます。

非正規職員の増加と不公平さ

 総務省のHPを確認すると、H17年に約304万人であった地方自治体正規職員はH30年には273万人程と8割ほどの人数に減っています。一方、非正規職員はH17年に45万人程であったものがH28年で64万人となっており、正規職員の減少とは逆にその数が大幅に増えています。部署によってはほとんどが非正規職員であり、正規職員は管理職一名しか配置していないということも珍しくなく、特にハローワークや子ども家庭支援センターなどの相談業務ではこの傾向が顕著です。しかし、給与水準で見ると、非正規職員は正規職員の足元にも及びません。賞与の支給もないため、正規職員が気を遣って話題にしない様子すらあります。また、期限の定めのある雇用が前提であるために昇進や昇給がなく、生活が固定化して低所得から抜け出せないなどの格差社会を助長する問題も内包しています。非正規職員の増加は自治体の人件費削減の求めに応じてのものすが、おそらく民間企業の派遣社員の課題と通じるところがあるでしょう。

そもそも何がきっかけとなったのか

 そんな非正規職員が最近になって注目を浴びることとなります。きっかけはなんともハッキリとしないのですが、非正規職員の増加により社会もその声が無視できなくなったことが大きいのでしょう。思い出せる範囲ですと、ネットカフェ難民問題が指摘され始めたあたりから就労環境の問題が脚光を浴び始めました。2014年ごろに「子どもの貧困率は16.3%」と衝撃的な発表がなされ、背景の保護者の所得さらには就労環境の課題が論じられ始めたように思います。そして、2016年に安倍総理が「同一労働同一賃金」の言葉を口にしたあたりから一気に加速したように感じます。

どのように変わるのか

 地方自治体の非正規職員は、改正前の旧地方公務員法では以下の3つに分けられます。

①特別職非常勤職員(地公法第3条第3項第3号)
②一般職非常勤職員(地公法第 17 条)
③臨時的任用職員(地公法第 22 条第2項又は第5項)

 しかし、社会の変化によってこの規定に綻びが見え始めました。①は元々高度な専門性を有する人物を対象としたものでしたが、事務職などの本来一般職に該当する職種にも適用されている自治体もあり、①と②の境界が不明瞭になっていきました。また、どの職員も長期間にわたっての採用を想定しないはずでしたが、非正規職員として何年も勤め上げている方が多い実情があり、制度と実態の間に差が生じている状況が続いていたのです。

 そこで、新地方公務員法ではより条文を明確にし、制度と実態の解離を解消することと、非正規職員の雇用を常態化できることを規定し、新たに「会計年度任用職員」が置かれました。新法では以下の3つに分かれます。

①特別職非常勤職員(地公法第3条第3項第3号)
②会計年度任用職員(地公法第 22 条の2第1項第1号又は第2号)
③臨時的任用職員(地公法第 22 条の3第1項又は第4項)

メリット・デメリットは?

 会計年度任用職員は、フルタイム職員とパートタイム職員に分かれます。前者では今までになかった期末手当、つまりボーナスが支給されます。また、後者でも期末手当を支払うことを自治体が定めることができます。つまり、期末手当の支払いがあることで所得アップにつながるわけです。一方、デメリットは、単年度の任用は変わらず雇用の安定につながらなかったことです。期末手当の支給により多くの人が年収ベースで50万円前後の所得アップとなると思われますが、安定した雇用に基づく生活基盤の確保や子育て環境の整備という点は叶わなかったようです。

 また、会計年度任用職員は一般職地方公務員として扱われることになります。今まで以上に厳格に地方公務員法が適用されるため、単年度雇用にも関わらず、規律遵守、処罰規定が正規職員と同様に適用されることとなります。解釈の仕方によっては選挙事務業務への従事の命令も可能になるのではないかと懸念します。

これは心理職にとって良い流れなのか?

 心理職には非正規職の掛け持ちで生計を立てている人は多いですが、行政の非正規職員を勤めている方には、家庭のご都合を理由にする方以外に2つのタイプの方がいると思います。一つは正規職に就く機会を狙っている人、もう一つは複数の職を掛け持ちすることで心理職としての腕を伸ばしたいと考えている人です。後者の方にとっては今回の改正はそこまでの影響はないだろうと思います。問題は前者の方です。なぜかと言うと、今回の改革により非正規職員雇用の問題が一段落してしまうと予想されるからです。非正規雇用を明確に規定することで、今後非正規雇用という採用が固定化されてしまい、正規雇用の採用枠が減少していく恐れすらあります。正規雇用を目指す方にとっては逆風となったように考えられるからです。

 今後、非正規職員として生きる方は増えていくと思います。しかし、上記で触れたとおり安定した雇用という側面は十分ではありません。正規職員との所得の差はある程度仕方ないと思うのですが、数年後に生活が出来ているという安心の保障をもっと整えていってほしいですね。

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