はじめに

 不登校とは「何らかの心理的・情緒的・身体的あるいは社会的要因・背景により、子どもが登校しない、あるいはしたくともできない状況にあること、登校をしていない状態にある児童・生徒」を指します。近年では増加傾向にあり、平成30年度では小・中・高の全ての校種で過去最高の人数を記録したようです。

統計

 文部科学省の統計によると、不登校の児童・生徒は1000人あたり小学校で7.0人、中学校で36.5人と発表しています。多くの学校で不登校は身近な問題となっており、特に中学校では1クラスに1人は不登校の児童・生徒がいる計算になります。背景となっている理由としては「家庭の状況」がもっとも多く、次いで「いじめを含む対人関係の影響」、「学業不振」と続いています。

学校などの支援体制

 不登校の児童・生徒への支援は学校現場では非常に大きな課題として毎年話題に上がります。担任の先生の関わりを見直すことは勿論ですし、児童・生徒の悩みが不登校につながるのではという視点からスクールカウンセラーを配置し、家庭状況を理由とする児童・生徒が多いと分かればスクールソーシャルワーカーの配置が急がれるなど、長い間支援体制の模索が続いていました。この対策に一定の効果があったとは思われます。しかし、上述のとおり、実数としては増加傾向は止まらず、学校に戻るという選択が現実的ではないという意見も世の中で増えてきました。

民間組織の尽力

 不登校支援では文科省を中心に学校の機能を強化するという対策を行ってきましたが、この支援は学校に来れるようになることが前提であり、この前提は行政の限界を示すものでもありました。この現状に変化を作ったのは民間組織でした。「学校に行くという目的的な対応を行うのではなく、まずは羽を休めることが大切」という視点からフリースペースやフリースクールの設立が進みます。この動きが不登校の本人や家族にとって大きな希望の光となったことは否めません。数年前には文科省からフリースクールなどの学びの機会を認めて、出席日数に含めるなど配慮を行って欲しいと各自治体に通達をしています。学校に行かないという選択が少しずつ認められるようになっている側面は否めないでしょう。

エネルギー切れという考え方

 さて、一口に不登校と言っても様々ですが、多くの不登校のお子さんが何らかの傷つきを体験しているように思います。それは、いじめなどの被害であったり、学業不振による自尊感情の傷つきであったりします。時には家庭の状況が凄惨で登校をするということそのものを優先できないお子さんもいます。大人が「不登校」と認識する時には、子ども達は散々苦しみ、現状を乗り切ろうと努力した末にエネルギーが切れてしまった状態であることが多いように思います。そのため、不登校からの回復は空になってしまったエネルギーを取り戻す過程であるとも言えます。しかしこのエネルギーとは目に見えるものではないので、周囲からは良い方向に向かっているのかどうかが分かりにくいものです。このことが、不登校のお子さんを持つ保護者の戸惑いにもつながっているように思います。次の項目では不登校からの回復の過程をまとめてみましたのでご覧ください。

不登校の経過

第1期

 学校に行けない状況であるにも関わらず、登校しようとして子どもなりの努力を繰り返す時期です。この時点で起立性調整障害や適応障害と診断を受けている子も少なくありません。身体の不調が続くことや、睡眠リズムが整わないことは、緊張や不安からくる過覚醒を背景にしている場合もあるのですが、それを意思の力で何とかしようと徹夜をして登校しようとする子や、絶対に朝から放課後まで居なければならないと無理を自分に課してしまう子にも出会うことがあります。

第2期

 努力したけど登校できないという現実にさらに傷付いて、塞ぎ込むことが増える時期です。布団から出てこない、自分一人の世界に没頭して家族を寄せ付けないなどの様子がこの時期では見られます。保護者も子供の本心が分からず、手を貸そうとしても激しく拒絶されることもあって、非常に辛い気持ちになります。ご家庭によっては親子の大喧嘩に発展することもあるようです。この時期はまさにエネルギーが枯渇した状態と言えるでしょう。学校からの働きかけや学校の話をされることも激しく拒絶します。自治体の教育相談室などの外部機関にはこの段階で相談に向かわれる方が多いように思います。

第3期

 自宅では以前と同じように振る舞う様になり、表面上は何も問題がないように見える時期です。そのため、再登校できるのではないかと家族が考え始めるのもこの時期です。しかし、実際には学校の話をされることは嫌がりますし、同年代の子と会うことに恐怖を見せるなど、安心して過ごしているとは言い難い状態が続いています。この段階では家という安全な空間で伸び伸びと過ごせるようになっただけで、まだ、外に出るエネルギーは溜まっていないことになります。しかし、共に過ごしている家族は、本人の元気さや自由に振る舞う様子から、不登校が怠けや気持ちが足りないだけではないかと思い、無理に働きかけようするのもこの時期に多いように思います。保護者にとっては一番イライラが募る時期のようです。

第4期

 現実的な事柄に再び目が向くのはこの時期です。中学生であれば高校受験がきっかけになることが多いようです。受験は今までの自分と決別して新しい世界に足を踏み出す機会ともなり得ます。小学生ですと、クラス替えや学期の移り変わりなどで、気持ちを切り替えることが出来る子もいますが、中学生ではなかなか学校に戻るという選択肢が取りづらく、新しい世界でリスタートという選択になることが多いように思います。付き合いのある友人が受験勉強を始めたとか、担任の先生から現実の話をされたなどの出来事で逃れられない現実を知り、気持ちの変化が起こることが多いようです。最近ではオンラインゲームの見知らぬ人に諭されるという話を聞くことも何度かありました。ゲームの人間関係も捨てたものではないようです。

 ただし、この時期は「あんなことがやりたい」などの希望を語り始めますが、まだ自分の置かれている状況を客観視できている訳ではなく、非現実的な希望を口にすることもしばしばです。なんであれ、エネルギーが外に向いてきたということは喜ばしいことなので、この変化は歓迎すべきでしょう。

第5期

 夢物語ではなく、自分にとって出来そうな選択や合いそうな環境を考えて折り合いが付けられるようになるのがこの時期です。不登校となった元々の原因を話題にすることや、当時何を思っていたのかを落ち着いて言葉にするお子さんも少なくありません。休んで溜めていたエネルギーを再び外に向け始める時期にあたりますので、急に止まっていた時間が動き出すように見えます。時にはこんなにエネルギッシュな子だったのかと驚かされることもあります。

内面への撤退という視点

 さて、それでは不登校のお子さんにはどのようなことが起こっているのでしょうか。お子さんごとに様々な理由がありますので一概に言うことは難しいですが、一つ共通して挙げられることは、自身の内面への撤退という心理的な反応が起こっているということです。人間は傷付き、自尊感情を維持することが難しくなると、外からの刺激を遮断して回復しようと試みます。これ以上自分が辛い状況に置かれて苦しくならないようにするための防御の姿勢です。つまり、内面へと撤退した時点で外からの刺激を受け入れることは難しく、周囲の人間はこの反応を尊重する必要があります。再び外界へと向かうエネルギーが溜まるのを待つしかないのです。この時間をたっぷりと取らないと、十分な回復が出来ずに辛い時間がより長く続いてしまうことにもなりかねません。

 不登校の期間は自身の内と外を行ったり来たりします。あたかも、外は安全かな?どうかな?と窺うようにです。支援者は子どもが今どちらの世界に目を向けているのかを見定めて、同じ方向へと目を向けることが関わりのポイントとなります。

不登校は長距離走

 上記の経過にあるようにⅠ.~Ⅴ.の経過はお子さんによって要する時間が異なります。短期間で通過する子もいれば、何年もかけて通過する子もいます。いつ登校するかの目処は立ちづらく、このことが保護者の方の不安を非常に強くします。もし、我が子が不登校になったら、一番大切なことは保護者が無理をしないことです。場合によっては何年も続くことになるため、保護者が力を入れすぎると途中で息切れしてしまいます。長距離走を走り抜けるつもりで、自分が何年も同じ対応をし続けられるかどうかを考えて、可能な働きかけを基本に据えるのがよいでしょう。お子さんが不登校の間は家族でやりとりする機会も増えていきます。なかなか難しいお願いですが、家族に笑顔が現れることを最優先にすることも我が子を再び外に送り出す原動力となるはずですよ。

参考

・文部科学省:平成30年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要
・神村栄一(2019). 不登校・ひきこもりのための行動活性化-子どもと若者の”心のエネルギー”がみるみる溜まる認知行動療法-. 金剛出版.