はじめに

 子どもの相談のために、カウンセラーと継続的に会っているという方も少なくはないでしょう。相談の時間をどのように過ごすと子どもへの良い支援につながるのかを考えることが今回の趣旨となります。

「子どもことでの相談」はどんな内容があるのか

 最初に主に18歳までのお子さんを想定してお話を進めていきたいと思います。この年代の相談の多くが学校や家庭での適応に関することであり、不登校や行動上の問題、あるいは家庭内のやりとりなどの悩みでいらっしゃる方が多いです。他者のことで相談機関を訪れる場合は、自分の悩みを相談に来る時と異なり、目に見える現象から相談が始まることに特徴があります。これは保護者の方の相談でも同じ傾向があります。

 お会いしてお子さんの様子を教えて頂くと成長の中の一過程と思われる子もいますし、発達障害愛着障害などに起因しており丁寧な支援が必要と感じるお子さんに出会うこともあります。前者の場合は保護者の方の関わり方を考えていくという方針になりやすいですが、後者では子ども本人へのカウンセリングなどが必要になることがあります。

相談機関はどのようなところがあるのか

 子どもの相談では、多くの場合は行政が中心となって充実した相談機会が提供されていると思います。乳幼児は保健所が中心に、就園後は園を軸に必要な相談機関が紹介されます。就学すれば教育委員会や学校のスクールカウンセラーが相談窓口となることでしょう(参考:カウンセラーと話すには②・教育領域)。また、児童相談所や子ども家庭支援センターなどは乳児から一貫して支援を行うことが可能となっている貴重な窓口でもあります。

 民間では児童・思春期を対象とした病院や療育機関が挙げられます。また、カウンセリングルームでお子さんとの関係についての相談を続けている保護者の方もいらっしゃいます。学習塾などが子どもの相談機関として機能している例を見ることもあります。

保護者はどのような姿勢で相談に行けば良いのだろうか

 様々な相談機関があり厳密にはその役割は異なるのですが、保護者の立場で子どものことを相談する時に意識しておくと良い点は共通しているようにも思います。順番にご紹介をさせて頂こうと思います。

一般的な子どもの成長についての知識を得る

 子どもはどの子も成長して大きくなっていきます。しかし、成長には個人差があるので保護者は我が子の成長の速度が適切かどうかに悩むことが少なくないようです。乳幼児さんの時には身体の成長という分かりやすい指標がありますが、大きくなってくると身体の成長だけではなく精神面の成長も気になるのではないでしょうか。身体面と異なり目で見えるわけではありませんから、我が子の内面が年齢相応かどうかに不安を募らせることが起きてくるわけです。

 この精神面を含めた一般的な成長の程度を理解することが一つの目標になります。ある程度慣れているカウンセラーであれば、お子さんの様子から、成長が一般的な成長ペースであるか、少しゆっくりさんでも誤差の範囲に収まるかどうか、あるいは何かしらの支援を行って成長の後押しが必要であるかに気付くことが出来るはずです。併せて今後の成長の見通しもお伝えできるでしょう。このような知識を得ることは相談の一つの目的となります。

我が子についての理解を深める

 成長速度の問題があってもなくとも子どもの行動面に悩むことは当然あります。何が起こっているかが分からないと誰しも不安が募らせるものですが、それは親子の関係でも同じです。この子はなぜこのような行動をするのか、どんな時にこの行動が出るのか、行動に含まれるメッセージは何なのか。

 行動の背景にある気持ちを知り、我が子がどんな人なのかが分かると随分と保護者側の心にも余裕ができて、冷静に対応を考えることが出来るようになります。この心境を作るのは「子どものことを知っている」という自信に他なりません。

なぜ保護者が悩んでいるのかを考える

 子どもの行動で生じる悩みは多くの場合、当然の気持ちであって周囲からも同意を得られるものだと思います。例えば暴言を吐き続けるという我が子の行動を見て胸を痛めない人はいないでしょうし、この行動を取り除きたいと考えることも至極当然です。しかし、保護者がなぜこの行動に悩んでいるのかを自覚しておくことが大切です。なぜなら、悩まなくなる基準が定まっていないと、いつまで経っても子どもの行動にOKを出せなくなってしまい、子どもにポジティブな態度を向けられないからです。

 暴言の例であれば「まずは、学校で言わなくなればOKにしよう。家庭内はしばらく放っておこう」などのひとまずの妥協点となるものが必要になります。なぜなら、子どもに求める基準を「暴言をなくす」とすると相当に高いハードルになるため、穏やかな気持ちで過ごせる日が遠のいてしまうからです。暴言がない人は大人でも極少数でしょうから全くのゼロにすることは現実的でないと言って良いでしょう。なぜ、悩んでいるのかを考えることは、何をゴールにするかを決めることとイコールになるはずです。

自分の悩みと子どもの悩みを分けて考える

 保護者の悩みと子どもの悩みが混在している方に出会うことがあります。その最たるものが学習かもしれません。確かに将来に影響が出るほどの不勉強であれば問題ですが、宿題は必ず済ませて成績もそこそこ、しかし家に帰ってきてゲームばかりしている。保護者からすれば、もっと勉強しないと良い大学に行けないから困るなどの親子関係が悩みの混在の場面に当てはまります。子どもの不安ではなく保護者の将来に対しての不安が相談のきっかけとなっているからです。

 子どもに保護者の不安やどうすれば将来につながるかなどの現実的な話を親の気持ちとして伝えた方が良いとは思います。しかし、もしも子どもの主体性を脅かすほどの操作的な働きかけを行ってしまうとしたら、何かしら負担が子どもの心身にかかると思った方が良いでしょう。

参考:教育虐待を防ぐために

現実的な対応について考えること

 一歩引いた場所から我が子を眺められるようになると、もしお子さんに何かしらの課題があれば、そのことが浮き彫りになって気付くことが出来るはずです。この段階になると、現実的な適応を目指してカウンセラーと一緒に対応を考えることが増えてくるでしょう。進路選択の話や心身の不調があれば医療機関の受診などを考えますし、学校での過ごし方を模索するなども現実的な対処についての相談です。

未来志向で子どものことを考える

 最も大切なのは今現在の悩みや子どもの課題を速やかに取り除くことではなく、10年後、20年後に子どもが健やかに成長しているために今できる最善のことをしておこうという姿勢です。人事を尽くして天命を待つという諺がありますが、この姿勢を見失うと子どもに対して極端な態度に出てしまいやすくなります。

 ここまで紹介をしてきた姿勢を意識して相談を重ねていくと、親子の丁度良い距離感が生まれてくるはずです。この距離感は今後の安定した親子関係を続けるための礎となるものです。長く続けられる関係を作ることは、今回の相談内容だけでなく、これから起こるであろう様々な悩みを乗り越える土台になります。

通じ合える人間関係を作ることがゴールかもしれない

 多くの場合、相談は「子どものことが分からない」という戸惑いがスタートになっているはずです。分からないことは不安を生み、必要以上に過干渉になったり逆に養育に及び腰になったりするものです。お子さんがなぜそのようなことをするのかが見えてくると、現実的な変化が訪れていなくても親子で穏やかに過ごすことが出来るようになります。このような時間が親子の間で持てることが相談のゴールなのかもしれないと思います。

相談の頻度について

 最近はどこの相談機関も忙しく、なかなか予約が取りにくいとは思いますが、可能であれば相談初期は約束の頻度を密にした方が良いと思います。カウンセラーもお子さんのこと、母子の関係性、家族や学校の理解の仕方などの情報をしっかりと把握していないと十分なお手伝いが出来ないからです。月に1回程度の頻度ですと相談時間が核心に触れるまでに相当の期間が必要ということを知っておくことは大切です。

関係者で共有することのメリットとデメリット

 学校やその他の相談機関とで、お子さんの様子を共有して一丸となった支援を行っていくという「連携の原則」が最近では尊ばれています。関わる人々が同じ気持ちを持つことで子どもに対しての支援にブレがなくなりますし、大人も仲間に支えられている感覚を持つことによって自信を持って子どもと向き合うことが出来るようになります。

 しかし、この連携の原則が大人のためになっていないかという点には注意を払っておく必要があると感じています。子どもの立場からすれば、周りの大人が皆同じ姿勢でいることは囲まれて窮屈な気持ちになることがありますし、プラスの面としては色々な人に様々な側面を指摘されることがより多くのことを学ぶ機会となり得ます。たとえ大人の言葉が人によって異なり、子どもに葛藤や怒りが生じたとしても、それが情緒の成長を促すこともあるのです。

成人している子どもの相談

 18歳までの子どものことについては随分と相談機関があるように思います。ただ、現実では18歳で子育てが終わるとは限りません。残念ながら相談機関は学齢期と比較すると急激に減少します。そのため、高校卒業後の我が子のことで相談を希望される方が当ルームのような民間の相談室を訪れることも珍しくないのです。その内容は引きこもり相談や男女関係の話、親子間の確執、生活上の不適応などの人間関係に根差す話が中心となりますが、子どものことを心配する保護者の気持ちという意味では、お子さんの年齢はあまり関係がないように思います。

保護者が主体的に生活を送れることを大切にする

 子どもが幼い時は子どもの主体性を損なわないようにが原則ですが、我が子が成人した後は逆に保護者の主体性が損なわれないように意識をしてください。引きこもる我が子の面倒を見て保護者が心身を壊してしまうことや、お金の無心によって生活が破綻することがないようにすることが大切です。長期戦になることもありますので生活の土台が揺さぶられないようにすることが最優先となります。時には我が子の要望を無視しても構わないと思います。

外部の相談機関の活用

 子ども時代と異なり力関係は逆転しています。そのため、話し合いをしてお互いに納得をすることが難しい場面が増えていきます。早めに家族外に状況を伝えて、可能であれば対応をお任せできた方が良いだろうと思います。これは保護者の限界を我が子に伝える意味でも必要な動きです。

カウンセリングでは

 成人の我が子を持つ保護者の方は無力感や喪失感の感覚を強く感じていらっしゃることが少なくありません。それは、親であっても状況を変えられないことや自分の子育てに問題があったのかもしれないという疑念、そして昔の可愛かった我が子との美しい思い出が失われてしまう喪失の感覚なのでしょう。

 子どもの加齢とともに変化していくことは行動変化を促すことが難しくなることです。そのため、相談の時間は子どものことでの相談という名目であっても、保護者の無力感や喪失感の話や、我が子との距離の取り方という現実的なテーマが中心になります。子育ての時間や子どもとの関係が自分の人生の中でどのように位置づけられているのかを整理して、保護者自身の生き方を考えていくこともあります。

 そのため、成人の我が子の相談は純粋な子どもの相談だけでなく、保護者自身の人生を振り返ることが同時に行われることになるのです。先程の保護者の主体性が大切という意識が自分の中で芽生えてくれば、カウンセリングが良い方向に進んでいると考えて間違いありません。

おわりに

 子育てや母子関係は美談として語られやすいですが、現実には子育ての負担を強く感じている保護者の方は少なくありません。保護者の立場で相談機関を利用するときは、上記のことを念頭に置いて、二人が苦しくならずに一緒にいられる時間を目指せると良いかと思われます。親子関係は一生続きますから、どちらかに無理がかかる方法は必ず関係に亀裂を入れてしまうことになるからです。