はじめに

 カウンセリングの中期では過去を再体験し、カウンセラーとの間でその体験を再度扱っていくことを述べました。その中でカウンセラーに過去の重要な人物を重ねて、様々な感情が激しく渦巻くこともご紹介しています。この時期を乗り越えてカウンセリングが終わりに近づいた後期が今回のテーマとなります。

終わりを迎えるタイミング

 さて、身も蓋もありませんが、カウンセリングが終結を迎えるにあたっては、転居や時間的制約などの外的要因によるものは非常に多いです。本当の意味でもうやる事はないというところまで続けられる事は稀でしょう。逆説的ではありますが、人生が続く限り自己理解は必要ですので、カウンセリングの終結を100%の安心感を持って終わることはまずないのでしょう。では、何を持って終わりとするのかと言うと、この先、何かが起きても自分で乗り越えられるだろうという自信が持てるようになることが一つの基準かと思います。

カウンセラーとの関係

 この時期になると、カウンセラーは中期のようにあなたの過去の重要人物と重なる人ではありません。あなたの目はカウンセラー個人を見るようになっているはずです。初期に持っていた期待や怖れはなく、中期にあったような御しきれない怒りや依存心もありません。カウンセリングは個としてのカウンセラーとの対話の場であり、過去の人物でもなく、自分でもないという意識が以前よりも強く生じているはずです。それは、カウンセラーが普通のおじさんであることにふと気付いたり、カウンセラーの欠点を笑って受け入れる自分の反応を通して気付くこともあります。この段階になると、あなたの中でカウンセラーの位置付けが大きく変わっていることでしょう。

未来の話が中心に

 カウンセリング後期では未来へと目が向くようになります。自分にどのような趣味趣向があり、どのように他者と接しているのかなどの、これまでに気付いた自己理解を土台にして、「では、これからどのように生きていくのか」と言う話題へと移っていくからです。これは、過去の傷付きを話題にしていた時や、カウンセラーとの間に起こる感情を扱っていた時とは異なります。目の前にいるカウンセラーがいない未来に目を向けているからです。この時期には「カウンセリングを終えたらどうするか」という話題が自然と起こるはずです。

 余談ですが、まちだカウンセリングのロゴには時計が入っています。これは「未来の話へ進んでいく」という意味を込めています。

分離・個体化理論

 では、初期から後期にかけて、カウンセリングの過程では何が起こっているのでしょうか。ここでは心理学者のマーラー(M.Mahler)の視点から考えてみたいと思います。彼女は3歳までの成長の過程で、子どもが母親との共生状態から抜け出して、母親が不在でも安心して過ごせるようになるという指摘をしています。これは分離・個体化理論と言われており、発達心理学では有名な指摘になりますが、カウンセリングの過程でも同様のことが言えます。何らかの悩みや傷つきを持って来室される相談者は、まずはカウンセラーと二人三脚で歩むことになります。これは共生期と言うことができ、カウンセリングの初期に該当します。続いて、カウンセラーと様々な情緒的交流が起こる中期は、自身の未来に進むために手探りをしている時期であり、練習期や再接近期に該当するでしょう。そして、十分に分離ができ、個として再出発をする後期へと至ります。

 この過程と並行して、カウンセリングの焦点も徐々に変わっていくことがあります。当初は支持的心理療法という一般的にイメージされるカウンセリングから始まって、自身の考え方などや行動パターンを扱う段階を経て、自分の根源を知るための精神分析的心理療法へとテーマが変化していくことは少なくないように思います。

カウンセリングの振り返り

 カウンセリングの後期は例えるのなら卒業式です。カウンセリングが終わってからどのように過ごしていくか、これからどのように生きていくかが話題の中心となります。同時に、時には数年にも及ぶカウンセリングを振り返り、カウンセラーとの別れを感じる時期でもあります。当初の悩みがどのように変化したのか、カウンセラーの反応のどの部分に何を見たのか、自分自身について何が分かって何が分からなかったのか、などを話していくことが良いかと思われます。また、自分がどのような状況に立たされたら、再びカウンセリングを行うほうが良いのかも決めておくと良いでしょう。

 カウンセリングの終結を決めた後も十分な期間を振り返りの時間として確保することは大切です。場合によっては、この時間を数ヶ月から1年用意することもあります。これは、カウンセラーとの別れという喪失体験を通じて、分離に伴う情緒を十分に扱うためです。それは、重要な他者との別れの場面を再現して自身の想いに気付く機会にもなりますし、喪失体験を十分に味わうことが後の心理的健康を作ることにもなるからです。別れという場面を自分の感情として意識でき、かつその感情に浸ることが出来るようになることは辛い体験やネガティブな感情に打ち負かされることなく居られることを意味しています。そのため、カウンセリングの終わりについては言いづらいことかもしれませんが、遠慮なく担当カウンセラーとお話をした方が良いと思われます。この話をすることそのものがカウンセリングの大きな意味でもあるのですから。

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