はじめに

 昨今、薬物依存やゲーム依存などのニュースが報道されることは多く、対応の必要性が指摘されています。一方、対応には医療や矯正施設などの社会資源の充実が求められますが、とても十分とは言えない状況です。つい先日、ギャンブル依存の治療に保険が適用される方針が発表されました。賛否あるそうですが、これだけ苦しんでいる方がいらっしゃる中で妥当な判断ではないかと思います。一方、治療にあたる人材の確保ができるのかは今後の課題でしょうか。

依存とは

 依存とはニコチンやアルコールなど特定の物質に度を超えてのめり込む「物質依存」とギャンブルなど特定の行為に没頭する「プロセス依存」があるそうです。どちらも日常生活に支障が出る程度であれば「依存症」と言ってよいでしょう。依存する対象がなくなると、気持ちがイライラする/落ち着かないなどの精神面への影響や、身体が震えるなどの身体面への影響が現れ、ない苦しさに耐えきれず再び依存行動を繰り返してしまいます。治療が困難を極めることは様々な報道で指摘されているところですので省きますが、一点明記しておきたいこととして、依存から抜け出せない原因をご本人の意思や努力のみに求めることは、ご本人を責めるだけで結果に繋がらないということです。

様々な依存

薬物依存・アルコール依存

 これらはDSM-5では物質使用障害として診断されます。過去12ヶ月の様子を振り返り、該当する項目を満たせば依存症と判断されることになります。これらの依存症は一人の力で依存から抜け出すことは相当に難しいはずです。日本ではダルクという依存症の方の治療施設がありますが、ここでは依存症で苦しむ方が集まり、お互いを支え合いながら再発を防ぐ努力をしておられます。松本俊彦先生は薬物依存を「孤立の病」と指摘しています。再発は孤独感が背景にあり、人を孤独にしない社会を作ることが大切とのことです。これには国を挙げての体制づくりが求められるでしょう。

参考:松本俊彦(2018), 薬物依存症, ちくま新書.

ゲーム依存・ギャンブル依存

 この2つは先のプロセス依存にあたります。今年、WHOがゲーム依存を病気と規定すると発表したことが話題となりました。最近のゲームはいわゆるガチャの採用などもあってギャンブル性が非常に高くなっています。ギャンブルにハマる仕組みは、成功した時に脳内でドーパミンという成分が分泌され、この成分が人間にとっては快感につながるために、行為(ゲーム、ギャンブル)が辛くても、快感を求めて続けてしまうというメカニズムです。学習心理学では一度習慣化された行動を消去するために必要な期間と、報酬を与えられる周期の関連を研究しています。その中では、報酬がランダムに与えられる方が消去はされにくい、つまり依存から抜け出しにくいことが指摘されています。このランダム性はまさにパチンコやガチャが採用している仕組みです。

自傷行為

 リストカットなどに代表される自傷行為は最初こそは、誰かに助けてもらいたい、寂しくて耐えられないなどの心の叫びですが、長期に渡って続くと当初の目的から逸れプロセス依存となります。自傷への依存を構成するものの背景に脳内麻薬エンケファリンの存在を指摘する仮説があります。この脳内麻薬が分泌されることで傷の痛みと併せて心の痛みにも鈍感になることができるため、苦しみからの解放を求めて依存していくというわけです。そして、自傷が徐々に激しさを増していく背景には脳内麻薬への耐性がついてきたと考えられます。まだ仮説ということですが、非常に興味深い指摘だと思います。このことについても松本先生の本で詳しく紹介されています。

参考:松本俊彦(2009), 自傷行為の理解と援助, 日本評論社.

対人関係の依存

 恋愛依存という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。これは自分の中にある空虚な部分を他人に満たしてもらいたいという気持ちが背景にあることが少なくありません。受け入れられたという感覚は人間にとって大きな報酬となり得ます。自尊感情が低いと自分の存在を他人に受け入れてもらい不安を解消する動きが現れますが、これは自分の空虚さを外の対象で埋めて自分が機能できるように維持していると考えることができます。このことは、依存性パーソナリティ障害との関連においても無視はできない視点です。

その他の依存

 他にも買い物依存、万引き依存、性依存、ニコチン依存などがあります。摂食障害も依存症との関連がありそうです。

依存症になりやすい人

 前置きが非常に長くなりましが、ここからが本題です。依存症になる人、ならない人がいますが、そのきっかけとなるものはなんでしょうか。その多くは過度なストレスが生じたときに支えてくれる人がいない孤独ではないかと思います。寂しさを紛らわすための場所として依存症が機能するわけです。これは周囲に人がいるという事実ではなく、人がいても理解をしてもらえないという主観的な孤独を考える必要があるでしょう。

 また、人間関係を維持したい切ない思いが背景にあることもあります。例えば仲間との関係が途絶えるのが怖かったから勧められるままに薬物を使用したと説明する方がいます。なんであれ、依存症の背景に人とのつながりを求める気持ちがあるのは間違いなさそうです。

カウンセリングで行うことは

 特に物質依存はカウンセリングルームのみで対応することがなかなかに難しい症状です。というのも非常に高い確率で中断が起きてしまうため、カウンセリングを行うことが「また関係を絶ってしまった」という反復体験につながってしまうことが懸念されるからです。依存症のカウンセリングが病院などの強制力の強い機関で多く行われているのはそのためでしょう。民間のカウンセリングルームを利用するタイミングは、ある程度の期間スリップ(依存行動を再発すること)がなく、かつダルクなどの機関を並行して利用しプライベートでの人間関係が整ってからの方が良いかと思います。

 プロセス依存の方と依存性パーソナリティ障害を含む対人依存に悩まれている方は、カウンセリングの利用を早めに検討して頂いた方が良いでしょう。というのもその多くは対人場面での寂しさや自分の気持ちの在り処を探す時間となるため、多くの心理療法の手法を適用することができるからです(物質依存の方は身体的なケアや物理的な拘束が優先されることが多いはずです)。ゲーム依存の方は来室がゲームの中断となるためカウンセリングの利用は難しいですが、見方を変えれば来室そのものが治療的意味を持つはずです。