はじめに

 発達障害という言葉は随分と周知された言葉になったように思います。主に学齢期の小児領域で話題になることが多いですが、最近では「大人の発達障害」も指摘されるようになりました。そのためか、成人してから発達障害の診断を受ける方も珍しくなくなり、小児領域に留まらず対象となる方の裾野が広がっていると言えます。

発達障害の分類

 発達障害の診断についてDSM-Ⅴの分類と照らしながら見ていきたいと思います。DSM-Ⅴでは「神経発達障害」のカテゴリーに属しており、以下のように記載されています。

  1. 知的能力障害群
  2. コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群
  3. 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)
  4. 注意欠陥多動症/注意欠陥・多動性障害(ADHD)
  5. 限局性学習症/限局性学習障害(LD)
  6. 運動症群/運動障害群
  7. 他の神経発達症群/他の神経発達障害群

 それぞれの群や障害の詳細についてはまた機会があれば細かくご紹介したいと思いますが、器質的な理由から認知機能、運動機能、対人スキルなどの獲得に苦手さがあり、このことが原因で日常生活に支障が出ていることが発達障害の診断には必要です。

発達障害によって生じる悩み

 発達障害をお持ちの方の多くは、集団の中で周囲と同じような行動をとることが苦手であったり、対人場面での暗黙の了解などを察することができずに失敗してしまうこと、あるいは学習場面での過度な困難などを抱えることになります。そして、これらの事情はご本人の努力によって克服することが難しく、器質的な要因が原因となっていることが特徴です。

 さらに、失敗や不器用さが発達障害によるものであるということが周囲からは分かりづらいことも少なくないため、このことで真面目に取り組んでいないとか、ふざけていると評価されることがあります。ご本人の負担感や悩みが伝わらず、頭ごなしに叱られてしまうことは心に大きなトラウマを蓄積していくことにもなります。

発達障害の二次障害

 心理カウンセリングの場では発達障害のご相談もありますが、前述の周囲からの評価などに伴う情緒的な揺れが相談のきっかけになる方が少なくありません。このような情緒面・精神面の症状は「発達障害の二次障害」と言われています。

 おおよそ小学校4、5年生頃の自我が確立してきた時期から身体の不調や不登校などの訴えが現れることが多いです。小学生高学年のお子さんが、ご本人の言葉で「周りの人と自分の違いを感じて辛い」と伝えてくることもあります。また、成人した発達障害をお持ちの方が「幼稚園から他の人と自分は違うということを明確に感じていた」と仰っていたことがありました。自分がどこか周りと違うという気付きはときには大きな傷付きとなることもあり、自尊感情を損なう発見となることもあります。

発達障害に伴う生活への影響とは

 二次障害のきっかけとなりやすい出来事は、やはり集団場面での行動がズレてしまうことにあると思います。他の人が容易に出来ることが出来ないなどの傾向があると、どうしても目立つ存在になってしまいます。その結果、上司や教師からの過度な叱責を受けることになりますし、同僚やクラスメートからいじめの対象にされるリスクが上がってしまうことにつながります。また、周囲の指摘は確かにご本人の上手くできない点を挙げているので、ご本人が反論もできずに針のむしろに立たされるような心境で過ごしていることもあるようです。

 人間はこのような過度なストレスがかかった状況に長く身を置くことはできません。休職や不登校につながる方もいらっしゃいますし、心の安定を損ない心身の症状に苦しむ方もいます。

 さらに、出来ないことが多いということは他者からの評価が低くなってしまうということも想像に難しくありません。不本意な人事異動や成績が奮わずに進路選択の幅が狭くなってしまう不利益が生じやすいと言えるでしょう。

診断に至るまでの経緯やきっかけ

子ども時代

 発達障害の診断は医療行為となりますので、診断を受けるためには医療機関で相談し、医師の判断を仰ぐことになります。しかし、医療機関に向かうまでに相談機関を訪れて、発達障害の可能性を察していることも少なくありません。

 幼少期では、健診や園の先生からの指摘があったり、学齢期では担任の先生やスクールカウンセラーからの指摘によって気付くことが多いようです。また、小学校に入ると学習が始まるので、学習の様子を見て初めてご本人の不器用さが表面化することもあります。

大人の発達障害

 成人の方が医療機関を訪ねるきっかけは、多くの場合は対人関係や仕事上の失敗や挫折を経験した後です。そのため、強い抑うつ気分を抱えていたり、いじめやハラスメントなどの影響から深刻なトラウマ反応が現れていることも少なくありません。そのため、発達障害の診断を受けることは付随的なもので、まずは情緒面の平穏を取り戻すことが必要になることが多いように思います。

参考:トラウマへのカウンセリング

 また、これは感覚的な話ですが、発達障害の程度が重いほど早期発見に繋がって適切な支援を受けやすくなる気がします。3歳児健診から発達障害の存在に気付いて、療育機関などにつながることで、就学時の戸惑いが低減されるなどの様子を見ることは少なくありません。

参考:子どもの発達~就学前①~

 発達障害の二次障害で人知れず苦しんでいる方は、むしろ発見がしにくいグレーゾーンと言われる方達に多いのではないでしょうか。特に成人になってから確定診断を受ける方は、長い期間に渡って悩み続け、自分なりの対処法を学んできた方が多いように思います。

知能検査との関連

 現在、発達障害の判断を行うためには、ほぼ知能検査の実施がセットになっているように思います(参考:知能検査・発達検査の基礎知識)。知能検査では能力面のバランスを知ることができ、各能力間でのアンバランスさがあれば、何らかの器質的な課題を持っている可能性が高いと考えることが出来るためです。しかし、アンバランスさがあれば即ち発達障害というわけではありません。あくまでも参考にするための検査です。

 また、知能検査では情緒面の様子を知ることは出来ません。そのため、二次障害に関する事柄は検査では分からないことになります。

 現在、知能検査を進める向きは非常に強いです。気になることがあれば、すぐに検査という流れが出来ています。しかし、能力面の把握が先行して当人の気持ちへの理解が後回しになってしまっていることも散見されます。検査を有効に活用するためには、知能検査で知ることが出来ること、出来ないことをしっかりと理解しておくことが大切です。

コミュニケーションを取るときに意識すること

周囲に分かってもらうために

 自分が発達障害を持っていると自覚されている方は、おそらく自分がどういう場面が得意でどういう場面が苦手かを知っている方だと思います。そして、この特徴が集団場面や対人場面にどのように影響するのかを日々関わる方に伝えていくことを目標にしていくことになるでしょう。

 しかし、自分一人ではなかなか伝える言葉が見つからなかったり、言いづらかったりするものです。信頼できる人や機関に代弁してもらうことを考えて良いと思います。病院からの意見書などによって、所属する組織に自分の状態を伝える方もいらっしゃいます。周囲の理解は過ごしやすさにつながり二次障害の発現を防ぐことになりますので、どのように自分を理解してもらうかを検討してみることは非常に重要な事柄です。

周囲が意識すること

 発達障害当事者の方が他人がどのように見ているのかが分かりにくいことと同じように、周囲にいる他人も発達障害当事者の方がどのように見て考えているのかを知ることが難しいはずです。「○○の場面が苦手」と言われても、それがどう現実生活に影響しているのかがイメージしにくいため、どのようにお手伝いすれば良いかが難しいのです。学校や会社で関わる方は、まず彼らの視点を時間をかけて聞いて欲しいと思います。おそらく「確かに、あなたの窓から見たら○○に見えるよね」と言えるようになっていくはずです。この理解は当事者の方の大きな支えとなります。

お互いに理解しようとすること

 このように考えると発達障害をお持ちの方もそうでない方も相手を思いやって理解するように努める姿勢が大切という点では何ら変わるところはありません。障害の有無によらず「こういうところがあるよね」という会話が自然に出来る関係を作ることは、人付き合いの基本的な姿勢であるはずです。積極的に対話が生まれる環境を作っていけると良いでしょう。

発達障害をお持ちの方の生活上の留意点

 最後に、普段の生活の中で意識することをご紹介して終わりにしたいと思っています。まずは自分が落ち着ける環境や時間を見つけて、日常的にその時間を過ごせるようにすることです。趣味の時間でもテレビを見ることでも良いですが、自分の時間が取れなくなると心への負荷が上がってしまいます。

 次に、コミュニティの中で自分のことを理解してくれる人を一人は作って下さい。何かがあったときに代弁してくれる他者の存在は大きな支えとなります。

 三つ目は、自分の気持ちを見つめる姿勢を身に付けることです。発達障害をお持ちの方は現実的な困難や目の前の課題をこなすことにエネルギーを注いできた方が少なくありません。そのため、自分の気持ちに目を向ける姿勢が身に付いていない方がいらっしゃいます。自分が今どんな気持ちでいるのかに気付ける事は、ストレス過多な場から距離を取ることを可能にします。自分の長所を活かせる場を見つけるとはよく言われることですが、見つけるためのアンテナを鍛えておく必要があります。

カウンセリングでポイントを整理する

 カウンセリングを利用されている方とは、上記のような留意点を一緒に考えていくことが少なくありません。自分一人で煮詰まっているようでしたら、カウンセラーと話をしながらポイントを整理していくことも良い方法だと思います。

参考

  • 日本精神神経学会(監修)(2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院.
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