はじめに

 精力的に学業や仕事に取り組んでいた人が突然関心を無くしてしまうことや、頑張ろうとしても心や身体を動かすことが困難な状況に陥ることがあります。ときに燃え尽き症候群(バーンアウト)と言われる症状です。

 本コラムでは燃え尽き症候群とは何かを概観して、予防と対処の仕方を考えていきます。

燃え尽き症候群とは

 燃え尽き症候群(Burnout Syndrome)は、長期間に渡って過度なストレスや疲労感にさらされることによって生じると言われています。働いている社会人の方に指摘をされる人が多い印象ですが、育児ノイローゼやスチューデントアパシーと言われるものも、同様の状態を指しているかもしれません。活動に向けるためのエネルギーが枯渇しまい、気怠さや感覚鈍麻などの身体的な症状の他に、感情の麻痺や無力感、虚しさなどの心理症状を呈することがあります。

 多くの場合はご本人に責められるべき点はなく、頑張りすぎた結果として現れる症状ということにご留意ください。

主な三症状として

 独立行政法人労働政策研究・研修機構のホームページを訪ねると、対人援助職の燃え尽き症候群に関する研究論文(久保, 2007)があります。そこでは、以下の3つの代表的な症状が紹介されています。

情緒的消耗感(emotional exhaustion)

  「仕事を通じて、情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態」 と定義されています。この状態は単なる肉体の疲労だけではなく、情緒的に消耗していることが求められています。そして、燃え尽き症候群では、この情緒的消耗が主症状となっているそうです。

脱人格化 (depersonalization)

 「クライエントに対する無情で、非人間的な対応」とされています。本研究では対人援助職を対象にして3症状を見出しているため、この定義は支援者が支援を提供すべき相手に冷たい態度を取ることを表しています。

 しかし、冷たい態度の背景にあるものは、これ以上の消耗を避けるために他者との接触に情緒を働かせないという防御姿勢が作動するためです。このことから、対人援助職に限らず他者との情緒的交流を避けることが症状の一つと理解して良いと思います。

個人的達成感 (personal accomplishment)の低下

 「ヒューマンサービスの職務に関わる有能感、達成感」と定義されています。提供されているサービスや仕事の質が急激に低下し、本人も手応えや達成感を感じることができなくなります。これも対人援助職に限らない項目です。仕事への意欲減退は燃え尽き症候群の顕著なサインの一つです。

補足:対人援助職から注目を浴びた概念

 燃え尽き症候群に注目が集まった初期の頃は、対人援助職の方に多く見られるという指摘がありました。ご紹介した3症状はその時代の視点を反映した定義となっていますが、職域を超えて共通するものです。

身体症状の段階的変化

 続いて、燃え尽き症候群の進展に伴う身体的な変化を段階ごとにまとめました。ご自身の状態に照らしながら読んで頂くとよいかもしれません。

1. 感情的な疲労感が目立つ段階

 疲れ果てて、エネルギーを使い果たした状態です。無力感や絶望感を感じて、活動への意欲をなくします。これまで一緒に過ごしてきた周囲の人は、その変化に驚くかもしれません。あるいは、突然やる気をなくしたことに批判の声が向けられることもあります。いずれにせよ最初に異変に気付くのは周囲の人々のようです。

2. 無力感と劣等感を強く感じる段階

 ふと自分の職務内容を振り返るタイミングが必ず訪れます。この時に自分が思っていた結果と異なっていることに気が付くことになります。総じて思い描いていたものよりも低い水準となっているため、自信喪失や将来への悲観につながりやすいです。

 ここが一つのポイントかもしれません。自分の思っていた結果との間にズレが生じていることは何かが見えていなかったからであり、後述する予防の姿勢に切り替えるべきサインになるかもしれません。

3. 社会から孤立している感覚を持つ段階

 日々接する他者はもちろん、社会との接点を持つことに抵抗を感じる段階です。気持ちではなく振る舞い方にも拒否的な雰囲気が目立つようになるため、実際に他者から孤立しやすくなります。孤立感は味方をしてくれている他者の存在にすら、気づかない状態に自身を追いやります。

4. 身体的な症状が現れる段階

 ここまでの段階では気を張りながらも頑張って過ごしてきました。しかし、緊張状態が続けば身体に不調がでることは必然です。この段階では慢性的な疲労感や、身体的な痛み、不眠などの症状が現れます。うつ病や適応障害と診断を受ける時期もこの段階が多いようです。

きっかけとなる出来事は

 ここまで述べてきたとおり、燃え尽き症候群の背景には慢性的なストレスがあることが多いようです。具体的には、業務量が多すぎて気が休まらない状態が続いていることや、責任の重い業務に従事させられていることなどが挙げられます。そのような環境を強いる職場は近年ではブラック企業などと言われますが、いわゆる優良企業の中にも業務負担が過度に多い職員がいることが稀ではありません。また、業務負担が大きくても周囲のサポートが得られているかによっても心身の負担は大きく変化します。管理職の采配能力は無視ができない項目となります。

参考:ブラック企業がもたらす心身への影響

 そして、ご本人の問題では決してないのですが、過剰適応気味に頑張ってしまうことや、他人のことを気遣い過ぎてしまう人は疲労が溜まりやすいことは間違いないでしょう。

参考:過剰適応の悩みと苦しみについて

 最後に、懸命に取り組んでも満足感や手応えが得られない状況や、理想としていたイメージと異なる状況で、ただ耐え続けるだけという状況も消耗に繋がりやすくなります。

予防について

 早期対策によって未然に防ぐことは大事な視点となります。 中でも一番大切なことは気持ちをリフレッシュする時間を取ることです。何もしない時間を無駄と思わずに、ゆっくりと過ごす時間を積極的に取ることが重要です。言うまでもないかもしれませんが、睡眠時間の確保は最優先事項です。

 また自分の気持ちの状態を眺めることを習慣にしてください。5段階の点数でつけてみたり、晴や曇りのお天気マークをカレンダーに付けていっても良いでしょう。ついつい忘れてしまいがちですが、毎日のスケジュールに組み込んでしまうと行いやすいはずです。

 そして、大事なことは孤独にならないことです。周囲の人に相談することはもちろん、自分ではどうにもならなくなった時にサポートを求めることに躊躇しないでください。それは決して恥ずかしいことではありません。

燃え尽き症候群になってしまった場合は

 不幸にも自分の限界を超えてしまった場合は、すぐにでも活動量を下げたほうが良いでしょう。我慢を続けて休職に至ってしまっては元も子もありません。自分を優先することはそのまま組織を大切にすることでもあります。

 自覚していないことも多いですが、家族や同僚は意外と気付いています。「他者から心配する声掛けがあった時は一度止まってみる」などのルールを作っておいてもよいかもしれません。多くの場合は自分の置かれている状態に目が向かなくなっています。この傾向を自分で変えていくことに困難を感じるようであればカウンセリングの利用を考えても良いかもしれません。自らの状態を振り返る時間を定期的に取ることで快復につながっていくからです。

おわりに

 燃え尽き症候群は頑張った結果です。しかし、頑張りによって得られる物よりも失う物の方が多いのではないでしょうか。辛いなと思った時には立ち止まり、自分が何を優先したいのかを考えてみるだけでも、このコラムでご紹介した注意点が自ずと意識されるのではとも思います。どうかご自愛ください。

参考

  • 独立行政法人労働政策研究・研修機構(外部リンクへ)
  • 久保真人(2007). バーンアウト(燃え尽き症候群)--ヒューマンサービス職のストレス, 日本労働研究雑誌49(1), 54-64.
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