はじめに

 3月は別れの季節と言います。この記事を読まれている方の中にも、卒業や転職によって新しい環境に飛び込む方がいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、所属が変わらなくても昇進や異動を控えている方も、きっと別れを予感されていることでしょう。

 今いる場所や立場にしっかりと別れを告げることは、新しい環境に向かう上で大切なことです。本コラムではこれからお別れを予定されている方に向けて、3月の過ごし方をお伝えしていきます。

別れによって何が変化するのか?

 まずは卒業や転職に伴い、どんなことが変化していくのかを考えてみましょう。当たり前と思われるかもしれませんが、整理して一つ一つに目を向けること自体が、別れの時期の大切な過ごし方なのです。

生活リズムの変化

 新しい職場、新しい学校に所属することになれば、1日のタイムテーブルは変わります。微々たる変化の方もいれば、これまでとは全く異なる大きな変化を迎える方もいらっしゃるでしょう。また、見知らぬ土地に引っ越しを予定されている方は、交通事情や日々の買い物などの些細なことまで変更を迫られるため、生活リズムを一から作り直すことになります。

目的の変化

 仕事を例に取ると分かりやすいかと思います。役職を得て立場が変わると、自らの活躍ではなく部下や後進の育成に時間を使うことが求められるかもしれません。また、別の会社に移ることになれば、これまでと同じ業務であっても全く異なる視点が必要になる可能性があります。

 これらの変化の意味することは考え方や立ち振る舞い方を切り替えることですが、この作業を負担と感じる方は少なくないのではないでしょうか。時に大きな心理的な痛みとなることすらあるため、注意が必要です。これまで高い成績を出してきた社員が管理職に昇進したことをきっかけに意気消沈してしまう、いわゆる管理職鬱(うつ)も、この目的の変化と無関係ではないはずです。

参考:変化を受け入れる負担

人間関係の変化

 新しい環境になれば、そこで生じる人間関係も変化します。初対面の人と人間関係を作ることが避けれれませんが、このことに気を遣わないわけがありません。また、見知った相手であっても双方の立場が変われば力関係も変化します。

 学生では学年が変わると友人関係が変わることが珍しくないですが、この変化を悲しく感じた経験を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。これらのエピソードは全て別れを内包しているものです。

別れを喪失体験として感じにくい背景

 4月に生じる主な変化を3つ紹介しました。これらの変化に発展の意味があることは確かです。しかし、これまで過ごした時間を失う意味もあるはずです。未練と言う言葉がありますが、前向きな気持ちよりも痛みを強く感じるのであれば、これは今の場所に残したものがあるのだと思います。未だ練れていないということなのでしょう。

 私たちの文化には新しい環境に進むことを美談にしてしまう風潮があるように感じます。卒業式は祝賀であり、転職で前の会社を去るときは変化を支持するように「がんばれよ」と声を掛けられます。この場への未練や先の不安が押し込められてしまう、そんな圧が別れの季節にはあり、喪失の物悲しさを体験しにくくする傾向がないでしょうか。加えて、当の本人も現実的な変化を前にして、喪失を感じる時間も気持ちの余裕もないという事情を抱えやすいことでしょう。

参考:喪失の反応と留意点

3月に出来ることは何か

 どんな前向きな別れであっても、失って傷付いている自分がいることに目を向けることが大切だと思います。今の場所を去る前に、これまでの時間を振り返り、他者と共有して、想いを置いていくことが大切です。強がって何事もないように振舞ったり、残務処理に追われて味わうどころではないといった過ごし方をすると、4月以降に別れの痛みがチクッと湧いてくることがあります。ですが、過ぎてしまえば自分で別れの痛みを消化するしかありません。

参考:心を知るために必要な姿勢

解放感を伴う別れについて

 一方、3月の別れが苦行からの解放を意味する方もいらっしゃいます。劣悪な労働環境やハラスメントに苦しめられた時間を過ごした方にとっては、喪失の痛みも別れの辛さもなく、やっと訪れた平穏に心が躍るのかもしれません。まずは、今までお疲れ様でしたとお伝えしたいです。

 このような形で別れを体験される方に気を付けて欲しいことは、4月以降のエネルギーを残しておくことです。辛い環境から解放された後は、脱力にも似た心身の反応が現れることがあります。やっと休めると安心するのかもしれません。何もしない時間が取れるのであれば良いのですが、翌月から新しい環境に飛び込むのであれば、そんな悠長なことは考えられません。

 ですから、エネルギーを残しておくことが大事なことになります。全ての怒りをぶちまけてきた。これまで言えなかったことを伝えて大ゲンカしてきたなどのエピソードは退職前に起こりやすいことです。自分がスッキリして次に進めるのであれば、全く止めるつもりはないのですが、怒りの炎で自分が疲弊しエネルギーを消費しないように気をつけて欲しいところです。

おわりに

 別れの季節は少なくない傷つきを体験します。この体験を丁寧に扱っておかないと、4月以降の新しい環境に影響を与えてしまうことがあります。傷ついている自分に無頓着にならないことは新しい場所で良いスタートを切ることにつながります。誰かと共有するでも、一人でこれまでの時間を振り返るでも良いのですが、自身が過ごした時間を労う機会を持つことをお勧めします。

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