はじめに

 今回は学校や行政の教育委員会にいる心理職についてご紹介したいと思います。

歴史

教育現場への心理ケアの考え方の導入

 我が国で最初に心のケアが提唱されたのは学校教育の中での教育相談です。戦後の混乱の中で子ども達の様々な苦悩や行動上の問題が生じたため、支援が必要であったのです。

 教育領域での心のケアは当初、学校の先生方がその任を引き受けてくださり、心理カウンセリングという現在の視点とはやや異なる教育相談という指導に位置づけられました。その流れを受けて今でも学校には教育相談担当の先生がいらっしゃいます。

自治体による教育相談の設置

 多くの自治体では行政や教育委員会が運営する子どもや青少年向けの相談室があります。学校は生活の場ですから、十分に心のケアを行う事が難しいことも少なくありません。また、学校外での相談が望ましいこともあります。そのような背景があってか、学校外の相談機関として教育相談室を設置する自治体が増えていきました。すでに50年以上の歴史を持つ相談室もあります。

学校内での心のケアの充実

 現在、学校での心のケアと言われるとスクールカウンセラーを想像する方が多いでしょう。歴史的には1995年から旧文部省が配置を始めたタイミングをスクールカウンセラーの誕生とする事が多いです。当時、不登校いじめなどの増加が指摘されて始め、学校現場の視点とは異なる目を持つ人材によって問題への対処にあたろうと考えた事がきっかけだったようです。

どんな相談ができるのか

 教育領域のカウンセラーには友人関係、学業のこと、家庭のこと、先生への不満など日常生活で起きる様々な悩みが持ち込まれます。特に話題となるのが、不登校、発達障害、精神症状などの相談でしょう。友人関係の背後に発達障害の問題があるなどのご相談に出会うことも珍しくはなく、日常の出来事とその背景にあるものとの関連や対処についての相談を受けています。

 時に法的な問題や福祉の関わりが必要なこともありますので、その場合はカウンセラーが他の担当者へと橋渡しをすることもあります。学校や行政機関に所属しているため、もっとも身近なカウンセラーと言えるかもしれません。

カウンセラーの資格

 教育分野のカウンセラーの資格はまちまちです。臨床心理士や認定心理士、臨床発達心理士などの資格を持つ人が多いですが、地方では人手の確保の難しさから必ずしも何かしらの有資格者が担当しているとは限らないようです。心理学部卒など、心理職としての資質が認められて採用になることもあるようです。また教育相談室などは学校教諭を経験した方が担っていることもあります。この場合、いわゆる心理職の視点とは異なった支援を頂けるかもしれません。

 また、東京都公立学校スクールカウンセラーの募集要項を参照すると、医師や公認心理師にも応募資格があります。特に公認心理師を根拠にスクールカウンセラーに就く方は今後増えていくのではと予想されます。

大学のカウンセラー

 多くの大学には学生相談室と呼ばれる在籍した学生を対象にした相談室が置かれています。大学の規模や考え方によって運営の方針も様々ですが、応募の段階で臨床心理士などの資格を有し、かつ実務経験が問われている事が少なくありません。そのためかベテランのカウンセラーが多い印象です。

教育領域のカウンセラーになる人はどんな人か

 教育領域の主役は子どもです。そのため、カウンセラー自身が子どもと関わることが苦手では話になりません。子どもは大人に比べて自分から相談に来るとは限らないので、他分野のカウンセラーに比べて積極的な関わり姿勢を持つ事が必要になり、カウンセラーの姿勢に反映されていきます。ただし、関わり方は暖かく見守る姿勢から指導寄りの姿勢になる人まで幅広く、カウンセラーの個性が良くも悪くも尊重されている領域かもしれません。

 子どもの成長に関わる上で必須になる視点は、現在の問題を成長の経過として見守るべきか、それとも精神症状の現れと見立てて早期に関わるべきかという判断が出来ることです。子どもの一般的な成長モデルを理解していることは必要ですし、子どもが問題を乗り越えられる段階まで見守る事ができる姿勢も求められます。教育領域では子どもの成長という特効薬も期待できますので、カウンセラー自身も幾分楽観的で健康的な姿勢を保っている方が多いようにも思います。

どんな人が利用しているのか

 教育領域の相談は本人、保護者が主な相談者となります。親子揃って利用していることも珍しくはありません。学校内では気楽に話ができる相手が見つからずに相談室でスクールカウンセラーと雑談をしている子どももいます。そう考えると、教育領域のカウンセラーを尋ねる方は、人とのやりとりを相談に来ているという共通の側面があるようにも思います。親子で見解のズレがあって上手くやりとりができないとか、登校した時に他の生徒に何を言われるかが怖いとか、教室で他の生徒とどのように関われば良いかなどの悩みです。何かしらの症状の除去を求められるのが医療領域であれば、教育領域は日常生活の足場を作りたいという方が利用されているように感じます。

教育領域のカウンセラーを利用するにあたって

 教育領域のカウンセラーは多くの場合、子どもがある年齢まで成長すると関わりが終了します。そのため、カウンセラーとの会話をその関係の中だけに留めておくと、上限年齢に達した後に困ることになります。カウンセラーと話をしていく中で、卒業した後どうするか、まだカウンセリングは必要か、必要ならどのようなところに行った方が良いかなどの話を必ず行ってください。良識のあるカウンセラーであれば、子どもの相談で将来の関わりにまで視野を広げておくことの重要性は理解しています。もし、心の世界だけに没頭して外に目を向けないカウンセラーがいたら、少し現実的な話をしたいと提案しても良いでしょう。

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