はじめに

 現代社会はストレス社会と言われています。事情は違えど多くの方がストレスを抱えており、その付き合い方に頭を悩ましている方がいることは多くのメディアで指摘されています。

統計

ストレスを抱えている人の割合

 厚生労働省は5年に1度「労働者健康状況調査」という名目で労働者の心身の実情を調査しています。この調査によれば「強いストレスとなる事柄があると答えた労働者の割合」は労働者全体の60%前後で推移しており、決して少なくない方がストレスを抱えながら日々を過ごしていることが分かります。

何がストレスなのか

 同じく調査結果を見ると強いストレスの内容は「仕事の質・量」が62.6%、次いで「仕事の失敗・責任の発生」が34.8%と続きます。対人関係は30.6%で第3位となっています。対人関係が最も高いかと思っていましたが、仕事を遂行することが大きなストレスとなっている方が圧倒的に多いという結果はやや意外にも思いました。現代社会では仕事上の失敗が許されなくなっていることや、個人への責任が重くなっているのでしょうか。

ストレスとは

 ではストレスとは、そもそもなんであるのか。元々は物理学の用語でしたが、身体にかかる負荷への反応を表す言葉として用いたのはセリエ(Selye. H.) です。心理的な負荷にストレスという言葉を用いたのはラザルス(Lazarus. R. S. )です。彼らの指摘を見ていきましょう。

汎適応症候群

 セリエはストレス下で起こる身体の反応はストレスとなる刺激(ストレッサー)の種類に関係なく同様であると述べています。それは、副腎皮質の肥大、胸腺、脾臓、リンパ節組織の萎縮、胃や十二指腸の潰瘍などです。ストレスを感じたことのある方の中にはこれらの反応を体験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。

経過

 さらにセリエは、汎適応症候群の経過を警告反応期→抵抗期→疲弊期と3段階に分けました。身体に反応が現れても(警告反応期)、ごまかして過ごしていると治ったと錯覚します(抵抗期)、これをさらに放置すると、身体の反応が再燃しさらに重篤な症状として現れます(疲弊期)。

ストレス・コーピング

 同じ負荷がかかってもストレスに感じる人と感じない人がいます。それは、なぜでしょうか。このことについてはストレスを感じた後の受けとめ方が違うと考えるのが妥当なように思います。 

 ストレスを感じてから行われる対処の仕方をコーピングと言います。ラザルスはコーピングは個人の特性に依るものではなく、努力を要するものとしています。つまり、ストレスを感じている場合は、能動的にストレスを解消する試みを行う必要があるということです。コーピングは大きく二つの種類に分かれます。

情動焦点コーピング

 ストレス状況に対する捉え方を変えることで、気持ちの受け止め方を変化させる。

問題焦点コーピング

 ストレス状況そのものを変化させようとする。

の二種類です。前者は仕事の量が多く負担が大きい状況を昇進のチャンスと捉えるように視点を変え、後者では仕事の量を減らすために業務を見直すという具体的な行動に移ります。

ストレスを感じている時のカウンセリング

 さて、ストレスを感じている時とタイトルを作りましたが、カウンセリングは大体がストレスを感じている時に行うものですので、このタイトルは非常に広いものとなってしまいます。ストレス・コーピングの考え方を心理療法に当てはめてみると、情動焦点コーピングは認知療法の視点で、問題焦点コーピングは行動療法の視点で利用されていることが分かります。カウンセリングの場面では、ストレスに対して、どのように考え(認知面)、どのようにしていくか(行動面)という探索を行っていくことは一般的です。その上で、捉え方を変化させていく方向に目を向けるか、ストレス状況に慣れるようにスモールステップでチャレンジしていくかなどの作戦が練られていくことになります。

コーピングスキルを内在化する

 うつ病となってカウンセリングを受けられる方は少なくありません。カウンセリングでは上記のような視点を持って、快方に向けて二人三脚をしていきます。この過程にはカウンセラーとともにコーピングの練習をしていき、後々には自分一人で行えるようにしていくという役割があります。カウンセリングの効果が長期間に渡って維持されるというのは、カウンセリングの場面で学んだコーピングスキルがその後の人生の中でも活用できるようになるからと考えることができるでしょう。

コーピングでは対処が難しいストレス

 ここまで読まれた方の中で、コーピングスキルを身につけることに大きな可能性を感じられていることと思われます。しかし、残念ながら万能薬となるものではありません。

 捉え方や状況を改善することでは対処できないストレスというのはどうしてもあります。全くもって距離を取れない人間関係や、実存的な不安、孤独な気持ち、理不尽な暴力などに付随するストレスには十分な効果を発揮できないことも多いでしょう。そのような時にはやはり自身の感情と向き合うことが必要になってくると思われます。あなたの感じているストレスがどのような種類のもので、どのように扱っていくのが良いかは、担当カウンセラーとご相談ください。

参考

・厚生労働省「労働安全衛生調査」
・日本精神神経学会(監修)(2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 医学書院.

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