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はじめに
どこまで相手に従うか、どこまで相手に付き合うかは相手との関係性や本人の性格などの様々な要因によって決定されます。漠然と社会全体で共有されている適切な距離感や付き合い方があるようには思いますが、自分の態度によって相手が気分を害したらどうしようという懸念はなかなか消えるものではありません。この悩みがすっきりとなくなることは難しいかもしれませんが、どのようなことを背景にして合わせ過ぎてしまう傾向が生じているかを知ることで、幾分気楽に過ごせるようにも思います。
負担や悩みとなる場面
さて、まずは例を挙げて少し考えてみたいと思います。下の2つの話は多くの方が「あれっ?」と思うのではないでしょうか。
- 職場でしか話したことがない人にいきなり「今日家に行っていい?」と声をかけられること。
- 次に、明日大事な仕事があるにも関わらず断りきれずに、誘われるがまま飲みに行ってしまい次の日に大遅刻をすること。
どちらも困惑や戸惑いを感じる場面であることは共有できるのではないでしょうか。しかし、少し違うポイントとして、1.では相手の態度に課題がありますので、どのように人間関係を続けていくかが焦点になりますが、2.の例では断れない自分の気持ちにも目を向ける必要があります。
人に合わせてしまう気持ちとは
以上の例のように、人に合わせてしまう悩みの背景は人によって異なることがあるように思います。どのようなことが考えられるのか、いくつかご紹介をしたいと思います。
嫌われたくない、仲間外れにされたくない
おそらくこの気持ちが一番多いのではないでしょうか。自分の気持ちや意見を強く主張することで関係が壊れてしまうのではと考えて、自分の意見を表明しないことは珍しいことではありません。しかし、この気持ちが強く働き過ぎて、自己犠牲的になっていないかどうかには注意が必要です。もし、負担を感じているのにも関わらず相手に合わせてしまうのであれば、そこには被害を受けることへの不安があるかもしれません。自分と相手は対等であるという視点を身につけていくことが大切です。
参考:コミュニケーションの責任
自分の気持ちが伝えられない
これは、上手に断る言葉が思い浮かばない時に生じる困り方でしょう。どのように返して良いかが分からずに曖昧な返事をしているうちに気がつくと、相手の意向を承諾したことになっていたという場面が想定されます。自分が相手に合わせることをどのように感じているのか、そして、そのことを伝えられないのはどうしてかということを考えてみることが大切です。
相手のことを気遣ってしまう
自分が相手に合わせないことで相手を深く傷付けてしまうのではないかと感じることもありそうです。相手を傷付けないように振る舞おうとした結果、自分の気持ちを背後に追いやり、相手に合わせてしまいます。思春期のグループなどに多くみられる傾向ですが、成人の方で自己主張が相手を傷付けてしまうという捉え方は早期の親子関係と関連して語られることもあります。
搾取・被搾取の関係になっている
相手に合わせてしまうことが、強い上下関係や主従関係によって規定されていることもあります。夫婦関係や上司と部下との関係で生じやすいようで、前者ではDV、後者では職場内ハラスメントなどの問題へとつながることが多いです。当事者は気付きにくい力の動きが生じており、特に合わせる側は主体的に思考することが阻害されていることもあります。ときには第三者の介入が必要な状況となることもあるでしょう。
悩みの背景は自分か相手との関係か
ご紹介してきたように、人に合わせてしまう気持ちは、誰にでも生じる気持ちを背景にしたものから、その人の考え方や環境によって形成された極端なものまで幅が広いように思います。人に合わせてしまうことの背景を知ることで悩みとの付き合い方も見えやすくなりますので、まずは自分自身の性格が原因なのか、それとも相手との力関係から生じているものなのかを振り返ってみるのも良いかもしれません。
人に合わせることの破壊的側面
ところで、人に合わせるという姿勢は長期的には人との関係を破壊してしまう側面があると考えられます。人に合わせ続けることはいつか無理が生じますので、遅かれ早かれ相手のことを煩わしく感じるようになるはずです。自分の主体性が強く意識されはじめ相手に合わせてしまう悩みが解決に向かうにつれて、相手のことを煩わしいと感じる気持ちも強くなるでしょう。そのように考えると、相手に合わせるという姿勢は相手を尊重しているようで長期的には遠ざけてしまう関わり方であると言えそうです。
人には合わせる基準となるものは
もし、あなたがその相手と長く関係を続けたいのであれば、早々に自分を押し込めて合わせるやりとりを終わりにする必要があると思います。また、そもそも関係が続くことを望んでいない相手であれば合わせる必要すらないのかもしれません。相手にどこまで合わせるかという基準は自分が相手に期待している関係性次第であり、どの程度相手に合わせるべきかの基準を定めるためには自分の内面をよく見つめる作業が欠かせないように思います。
自分の気持ちだけでは身動きが取れない時
しかし、相手が上司であったり何らかの力関係で規定されている人間関係、あるいは家族関係などの避けることが難しい人間関係では、自分の気持ちだけを判断の基準にする事が難しいことも確かです。
「それでも、上司に合わせるのが辛い…」。このような時に人は葛藤状態に置かれます。この状態が長く続く事で心身の不調につながることはありますし、程度があまりにも極端であれば冷静に考えることすら難しくなることがあります。例えば近年話題に上がるブラック企業では、労働環境の違法性は勿論ですが、本人の主体性が侵害されて自分の内面を見つめる機能が破壊されてしまう事が大きな問題となります(参考:ブラック企業で働くこと)。
もし、自分で冷静に考えることが難しい状況に置かれているのであれば、その判断は第三者に委ねる方が良いでしょう。葛藤を感じることができる段階のうちに誰かに相談する事が大切です。
おわりに
悩みの背景がどうであれ、自分を抑えて相手に合わせるという行為は長期的には自分の内面との対話を難しくして心を切り離す危険があります。常日頃から自分が相手とどういう関係でいたいのかということを考える習慣をつけていくことが大切ですし、そうすることで過度に相手に合わせることも少なくなるはずです。
「何故自分を抑えたやりとりになってしまうのか」はカウンセリングでも話題になる事が多い悩みです。それぞれ事情は異なりますが、人間関係を振り返り、自分の考えを整理して、主体性を回復することが共通の治療目標となるように思います。