はじめに

 日々の生活の中で家族と並んで重要な他者となるのが友人です。人によっては家族以上に親密な関係を結ぶ相手がいる方も少なくはないでしょう。私たちが社会生活を営む上で友人の影響は無視ができないものだと思います。しかし、だからこそ友人の不在が悩みの種になりやすいこともまた事実です。

友人関係が担う役割

 友人関係が我々に生じる影響は特に社会心理学の分野で研究がされているようです。内閣府が実施している「世界青年意識調査」では、多くの国の18歳~24歳の若者が困ったときの相談相手に家族を抜いて友人の存在を挙げています。

 では、友人関係を持つことに我々の生活にとってどのような役割を担っているのでしょうか。幾つかの研究を見ると、大まかにですが、①自身のコミュニケーション能力や社会性の成長などへの期待、②所属感や安心感などの欲求充足、③視野の広がりなどが上がっているようです。一つずつ考えていこうと思います。

成長への期待

 自らの成長に友人が大きな影響を与えていたということは珍しくはないでしょう。利己的な目的がなくとも、振り返ると友人との関係の中で人生の礎を築いたということがあるはずです。

 特に人付き合いの方法や相手との折り合いの付け方など、人間関係の土台となる事柄を学ぶことが多いかもしれません。まずは自分が相手に想いや考えを伝達する力が鍛えられることでしょう。しかし、アサーティブな会話ができるだけでは、理解は得られても友人関係の維持には繋がりません。相手を思いやることや共感する姿勢は必須であり、そのために相手の考えや情緒を受け止めることも求められます。友人との時間がやりとりのアウトプットとインプットを体験する機会となるのです。

所属感や安心感の充足

 このことは多くの方が学生時代に少なからず経験をしたのではないでしょうか。友人がいることで自分がその場にいることに安心感を覚えることは、集団の普遍的な法則だと思います。孤独の苦痛が不登校のきっかけになることや、いじめによる集団からの排除が筆舌に尽くし難い苦悩を与えることを我々は知っています。社会人でも仕事を与えずに自発的な退職を促すとか、転職活動を事実上強制する社内の追い出し部屋の存在が一時期話題になったことがありました。孤独は私たちの体験する苦しみの中でも特に過酷なものだと思います。友人の存在がこの苦しみを和らげる役割にを担ってくれることは言うまでもないでしょう。

視野の広がり

 他者とやりとりをすることで自分にはない視点に気付かされることは珍しくありません。自分とは全く異なる思考の原理を相手が持っていることや、友人が所属するコミュニティや趣味趣向の世界に勧誘されることで、これまで関心を抱くことがなかった世界へと進むこともあるはずです。手を引く他者の役割を担ってくれるのもまた友人なのです。

発達段階ごとの友人関係

 年齢によって友人との付き合い方は変化していきます。特に小学校時代は友人関係が毎年のように目まぐるしく変化することが少なくはありません。何かの研究結果でしたが、低学年時は家の近さや机の近さなどの地理的要因、中学年では習い事などの共通の役割、高学年ごろからは気が合うなどの感情的要因が友人関係を形成するきっかけであるということでした。小学校高学年頃になると「気が合う」とか「一緒にいてラク」と言った、より主観的な要因で友人関係が作られていくそうです。この年齢になると友人関係を形成して維持していく姿勢が、成人と大きく変わることがないように思います(参考:子どもの発達~小学校高学年~)。

 しかし、社会人になると、仕事や趣味などの共通の目標を持つ他者と過ごす時間が多くなります。目的志向的な生活は友人との心地よかった時間を忘れがちにしてしまうことすらあります。また、恋人や夫婦関係といった恋愛関係の進展によって、友人関係が担っていた役割を恋愛関係が引き継いでいくことになる人も少なくないでしょう。両者を別物として捉えている方は、友人と恋人関係にそれぞれ別の役割を持たせているように感じることがあります。

 ところで、思春期の友人関係が生涯続くという指摘はよく言われることですが、必ずしもそうかと言うと少し疑問です。なぜなら、定年退職後の孤独が一時期話題に上がったように、万人に当てはまる事実ではないように思うからです。心は通じ合っているのかもしれませんが、この状態も友人が不在な環境だと思います。

何に悩みを感じるのか

 では、友人関係を持てないことで当事者が悩むのはどのようなことなのでしょうか。自覚した悩みとなるのは先程の3つの役割のうち、「所属感や安心感」が満たされないことだと思います。孤独であることを感じると被害感や情けなさが募り、自信や自己肯定感を持ちにくくなります。ときには抑うつ感情も募り社会生活の不適応へと繋がることもあります。

 社会適応には家庭の外で過ごすことが求められている節がありますので、家族以外の関係に安心感を持てることは、健康な毎日には欠かせないのです。

 先程の友人関係の役割のうち、残る二つは少し趣が異なります。自身の成長や視野の広がりは未来への期待ですから、苦しみを伴う悩みとなるのは稀でしょう。もちろん心理療法の対象として話題に上がることも稀です。キャリアカウンセリングや教育相談などでは「コミュニティに所属し友人関係を作ること」とアドバイスを頂く方がいらっしゃるようですが、本人の意識的な悩みとは少し異なるように思います。

参考:孤独の苦しみへのカウンセリング

悩みは生涯を通じて起こりうる

 知らない間に仲良くなっていた、新しいクラスでは新しい友達ができる。こんな自然発生的に形成していくものが友人関係であると考える方は少なくないのではないでしょうか。そして、この考え方は社会人になっても持ち越されていくようです。

 しかし、現実には加齢と共に自然発生の機会は減り、友人関係を作る努力が必要になります。友人の不在は子ども達を取り巻く出来事として取り上げられることが多いですが、成人や高齢者で生じている状況の方が深刻なのかもしれません(村田, 2018)。そこには、子どもたちよりも孤独になりやすいという現実的な事情があるからであり、この孤独が時に命に関わることもあるからです。

友人関係を持ちにくい性格特性

 あえて言うのであれば、自分のことしか考えない人や利己的な人、他人を利用しようとする性格を持っていると友人ができても徐々に相手が離れていってしまうことになります。ここら辺はパーソナリティ障害の方が意識せずに行っている行動に該当するものが少なくありません。自分で気がついて直せるのなら良いのですが、一人で取り組むことが難しければカウンセリングの実施は有効です。

 また、何を考えているのか相手に伝わりづらかったり、他者が共有しにくい視点を有する方も友人関係を作ることに一苦労します。ここには発達障害の特徴を持つ方などが該当するかと思います。しかし、このような背景から友人を作りにくい方は、気の合う相手が見つかると本当に深い関係を築けます。関係維持の障害というよりも、きっかけに恵まれにくいという表現の方が正確かもしれません。

おわりに

 友人関係の役割に目を向けて、友人の不在が悩みとなることは「所属感や安心感」を得ることが出来ずに、孤独に置かれてしまうことからであると書いてきました。友人関係に悩んでいる方がこの記事を読んでくださったのなら、自分が孤独とどのように付き合うかを考えることで、相手との接し方のヒントが得られるのではと思います。

追記:近年のSNSについて

 さて、ここまで書いてきましたが、どうしても消化ができないことがあります。それが、近年のSNSの関係性です。インターネットがない時代の人間にとっては、SNSでボタン一つでフォローしあう関係に従来の友人関係と同じ役割を持たせて良いのかがよく分かりません。

 しかし、思春期にいる皆さんの交友関係やそこで生じる感情を聞いていると、昔からの友人同士の絆と変わらないものが生まれているようにも思うのです。SNSで始まる人間関係に大人は警戒をし、表面的で薄っぺらいものと見做しがちです。しかし、このような偏見と軽視が、子どもたちの友人関係の形成を阻むことにならないようにしないといけないと、最近は思うようになっています。

参考

  • 内閣府/第8回世界青年意識調査(外部リンク)
  • 村田ひろ子(2018). 友人関係が希薄な中高年男性 ―調査からみえる日本人の人間関係. NHK文化研究所, 放送研究と調査, 2018-6, 78-94.
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