ここ数年、我が子への虐待による痛ましい結果が報道されることが続いています。特に社会に大きな衝撃を与えたのが2018年の千葉県の女児虐待死の報道でした。この事件の概要は記述致しませんが、保護者への批判に加えて児童相談所(児相)の対応に多くの批判が集まりました。その結果、全国的に児相の体制改善や機能強化の動きが出てきました。

虐待の統計

 厚生労働省の統計によると、平成30年度の全国の児相の虐待対応件数は159,850件です。平成20年度では42,664件となっており、この10年を見ただけでも大きく増加していることが分かります。これは、決して社会に虐待が蔓延しはじめたということではなく、虐待が疑われたら通告をという意識が高まった結果だと思います。

 虐待は大きく4つに分類されます。①身体的虐待②心理的虐待③ネグレクト④性的虐待です。この中で一番多いのが心理的虐待で全受理数の55%程となっています。次に多いのが身体的虐待で25%です。平成20年度は心理的虐待は全虐待件数のうちの21%程で、身体的虐待は38%となっています。件数としてみると10年のうちに心理的虐待が80,000件近く増えていることになります。この件数はおそらく社会が虐待に目を光らせる以前には全く気付けなかった子どもの数です。この子達に救いの手が届くようになったことは本当に良かったと思います。一方で、この急激な増加によって、児相が対応をしきれなくなり、より丁寧な関わりが必要な子どもに手が届きにくくなってしまった側面は否定しきれません。

虐待の背景

 虐待の世代間伝達という言葉はよく言われますが、実はこの割合はそれ程高くないようです。すぐにデータをお出しできないのですが、25%程という研究結果を以前見たこともあります(このことについては研究の方法によって変動するものと思われます)。

虐待へ至る要因は、保護者が子どもを愛していないというような話では決してありません。厚生労働省は虐待のリスク要因について

①保護者側の要因(保護者の精神疾患、望まぬ妊娠 など)
②子ども側の要因(障害などにより何らかの育てにくさを持っている など)
③養育環境の要因(経済的貧困や社会的な孤立 など)

の3つに分類しています。つまり、子どもを愛していても環境によっては虐待という結果につながる危険があること、社会的支援や福祉の手によって、そのリスクを下げることができることが読み取れます。

 残念ながら我が子への虐待について指摘をし、児相の介入の必要性を保護者に伝えることがありますが、この申し出を受け入れてくれる保護者も実は少なくありません。当事者も自分達では止められない状況に危機感を持っていることは少なくないのです。虐待を行う親はひどい親だという風潮がありますが、望んで虐待を行う親などおらず、それぞれの方が持つ事情による悲しい帰結であると考える必要があります。

社会の対応の方向は

 今、児相の増設や人員増加が急速に進んでいます。心理職について述べると、以前は正規職員として自治体心理職に就職することは非常に難関でしたが、ここ数年大きく倍率を下げています。これは各自治体が採用数を増やしたことが主な理由であり、児相勤務ということを明言して採用をされることも少なくないようです。おそらく福祉職採用でも同じことが起こっているのではないでしょうか。「人員を増やしてどうにかなるのか?」という意見もあるようですが、大前提は人手を増やすことだと思います。職員一人当たりの担当件数を減らして、じっくりと関われる時間を増やしていくことは一番の予防策でしょう。加えて、保護者側への支援も大きな課題となります。つまり就業できる社会を作ること、必要に応じて適切な福祉サービスを受けることができる世の中を作ることです。これは児相だけで出来る話ではありません。虐待をした保護者を罰するのではなく、困っている保護者に声をかけることを社会全体が意識していくことが一番の虐待防止につながるのだと思います。

 最後になりますが、救急車に119番の短縮ダイヤルがあるように、児童相談所への通告ダイヤルがあります。「189(いちはやく)」です。近隣で気になることがありましたら、どうかダイヤルして頂きたいです。