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はじめに
2019年9月21日より横浜美術館の開館30周年を記念して、パリのオランジュリー美術館所蔵の作品を展示しています。ルノワール、セザンヌ、マティス、ピカソ、モディリアーニを中心に展示数も多くて見応えがあるものでした。
画商ポール・ギヨーム
今回の展示は画商であるポール・ギヨームが所蔵していた作品が中心となります。この方はルノワールをはじめ現代では有名になっている多くの画家の才能を見出し、画家を支援しながら自分のコレクションを増やしていった方のようです。調べてもあまり情報が出てこないのですが、非常に財力がありパリにいくつも邸宅を持っていたようです。彼は「邸宅美術館構想」を主張し、自宅を美術館のように絵画で埋め尽くし公開する計画を立てます。理想の形には至りませんでしたが、今回の展示では絵画に埋め尽くされた私邸の模型が飾られていました。なかなかの圧巻です。「画商は業界のリーダーでないといけない」ということを信念としていたようで、まさに近代美術史を牽引した存在であったのでしょう。
作品の傾向について
ポール・ギヨームは19世紀後半~第2位世界大戦勃発前の時代に生きた方であったため、コレクションも同時代の作品が中心で、印象派、フォーヴィズム、キュピズムの作品などが並んでいました。元々が個人所蔵の作品であったためか、メジャーでない作品も多く並んでいる点がむしろ本企画の見所なのかもしれません。
この時代の作品はルネサンス期のような激しさや恐怖感を煽るような画風が少なく、ホッと安心できる作品が多くなります。アトリエで描くのではなく画家が外に出て描くことが多くなるのもこの頃です。作風が写実的になるため絵画を前にしても我々は現実感を保つことができ、安心した印象を持ちやすくなるのでしょう。展示されていた若き日のシャネルの肖像画なども、我々の馴染や親しみを呼び起こすのかもしれません。
作品について思うこと
ピカソの絵は幾何学的で独特な描写のため、芸術の理解し難さを伝える上で度々挙げられます。今回の展示でピカソの絵が幾何学的な構図になる前の過渡期の作品を見ることができたことが個人的には大きな収穫でした。ピカソの絵は時間の経過とともに影が段々と濃くなっていき、大きくなった影の色をより濃くしていけば影に輪郭が生まれて、ピカソの描く不思議な絵になっていきます。分かりにくい作品と言われているピカソの作品は、実は写実的でモチーフに忠実であると言えます。
また、今回興味を惹かれたがモーリス・ユリトロとシャイム・スーティンです。ユリトロは幼い時に精神薄弱と言われ、その後アルコール依存症に苦しみます。その中でパリの街を描き続けてきたのですが、街中を描いているだけのはずなのに、どこか物悲しい印象を与える作風が我々を引き込みます。スーティンの作品には幼少期に見た肉屋で屠殺された動物がモチーフになった絵があり「あの時の恐怖から逃れるために描いている」と説明されています。スーティン自身の恵まれない環境と動物が重なっているようでいたたまれない気持ちになります。独特な色遣いも相まって画家の恐怖や不安が入り込んでくるような作品でした。
業界を作るということ
今回の展示は、画商が画家を盛り立てること、現代風に言えばアイドルをプロデュースする活動に似た役割がありました。画家は専門家ですが社交的ではない方が多いのだろうと思います。その方達の活動が社会に周知されていくために活動してくれる存在は非常に貴重です。
同時に我々心理士の業界にも同じことが言えるんですよね。内的世界に重きを置く姿勢は画家とよく似ています。しかし、日本の心理業界にはポール・ギヨームのような人はまだいません。公認心理師資格が整備されたことも、今後はポール・ギヨームのように業界をまとめ上げるリーダーの存在が必要だと感じるところです。