はじめに

 責任を負えないというと2つのタイプがあるかと思います。一つは責任の重さに耐えられないこと。もう一つはそもそも責任を取る気がないという無責任な様子です。同じ責任を持てないことでも、この二つが指すことは随分と違うように思います。今回は前者の悩みを扱いたいと思います。

責任の二つの側面

 ドラマなどで上司が「俺が責任を持つ」などと言うシーンがあります。この場合の責任は何かがあったときに自分が罰を受ける覚悟があると言っています。そして、その覚悟をする代わりに、決定権を自分が持つとも言っているのです。つまり責任とは罰を受ける覚悟と決断を下す勇気の二つの側面があります。責任を過度に重荷に感じるという悩みの背景には、どちらかの事柄に何らかのつまずきがあるのではないでしょうか。

罰を受ける覚悟

 さて、心理学では罰という言葉に大きな意味があります。言うまでもなくフロイト(S. Freud)が残したエディプスコンプレックスです。この言葉には自信や尊厳などを権威的な存在に奪われてしまう不安という意味があり、人間が最初にそのことを感じるのは父親から罰を受けるかもしれないという空想です。また、神話でもアダムとイブが楽園の果実を食べて神から罰を受けるシーンにも見られるように、人間は自由に振る舞うことと罪の気持ちがセットで本能に規定されているのかもしれません。

 このように考えると、罰を受ける覚悟を持つためにはエディプスの段階を過ぎている事が必須であると言えそうです。決して子ども時代の話だけではなく、社会人でも罰を受けることを過度に気にして萎縮したり極端に規律を遵守しようとする方がいらっしゃいます。エディプスの段階でのつまずきが作用しているのであれば、罰を避けたいという気持ちが強く働くことが、責任を回避するという様子につながっているように思います。

決断を下す勇気

 決断を下すということはとても主体的で創造的な行為です。規律やマニュアルを参照して他者の判断に頼るのではなく自分の判断基準に基づいて実行することですから、当然自分自身の内面に開けている必要があります。ここではL.コールバーグの倫理観の発達も関連する指摘でしょう。彼は倫理観の発達とは、大人に盲目的に従うことから始まって自分の中の信念を準拠枠にして決定できるようになること、としています。信念に開けていることは主体的に思考を巡らせて創造的な結果を導くことですから、決断を下す勇気を持つためには抑うつ体勢が十分に機能していることが必要であると考えられます。

責任を重荷に感じるへの悩み

 さて、以上のことを前提にして考えていくと、責任を重荷に感じることは、罰の不安に圧倒されて主体的に考えることが出来ず、他者の言葉で価値判断をしている有り様と言えそうです。責任を重荷に感じると、責任ある立場を頑なに拒否するか、責任が生じる可能性のある場を極端に避けようとします。多くの方がご自身のそのような傾向に気付いてはいるのでしょうが、罰を受ける不安の方が優勢に働いてしまっているのでしょう。とすれば、責任を重荷に感じる悩みは不安に圧倒されてしまい、自分の想いや思考を現実社会に表現できないことであるとも言えそうです。

人間関係への影響

 少し現実的な話になりますが、責任を負えない方はどうしても孤立していきます。ご本人の悩みはあるにせよ、周囲からは頼りにならない、張り合いがない、無責任などと思われてしまうからです。特に仕事の場では顕著に現れます。全てを他者の判断を参照して動くわけにはいきませんから、自身が責任を持って取り組む姿勢がどうしても必要になるからです。

 また、我が国には年功序列意識が未だに残っていますが、責任を持つことを過度に重荷に感じる方が社内の慣習に後押しされて管理職になることがあります。ご本人の苦悩は相当のものとなり、時に心身の不調によって休職してしまう事例も見られます。

責任を持たせることの破壊性

 自己決定できる人材を育てていくための研修を行なっている企業もあります。大切な機会ですが、おそらく自己決定を迫られることに恐れ慄いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。先程のとおり、責任を重荷に感じることの背景には発達早期の不安が根強く残っているという事情があります。ただ、責任を持てと言うことは不安の只中に投げ込むだけですから当人にとっては攻撃を受けることと同じでしょうし、文字通り破壊的な関わりとなる危険があります。

カウンセリングでは

 ご推察のとおり、カウンセリングでは罰を受ける不安を扱うことになります。例に挙げている職場の様子のような現実的な不都合の場面では認知行動療法などのアプローチは有用でしょう。しかし、事がもっと大きくなり、責任を負えないために他者依存的になっているなど生き方全体に影響をしているのであれば、精神分析的心理療法などの技法を用いていくことになります。

 カウンセリングを受けられる方は、ご自身の中にある不安を感じて、そこに浮かんでくる連想に心を漂わせてみることをまずはやってみると良いでしょう。不安を感じられるか、漂わせることが出来るかによってカウンセリングの方針が決まっていくので、このチャレンジの結果をカウンセラーに伝えてみてください。