はじめに

 明日の予定を考えることや将来を思い描くことは我々の日常です。このような未来のイメージは、他者の行動や日々の時間の流れが想像通りに進んでいくはずだという信頼が前提です。ですが、その前提は不確かなものであり、ときには全くもって予想外の出来事が起こることを誰しもが経験していることでしょう。このような場面では心の動揺を伴うことが当然の反応ではありますが、中には大混乱を生じてしまう方もいらっしゃるようです。

 本コラムでは、予想外の出来事が起こった時の心の動きを考えていきます。そして、カウンセリングではどのような視点を持って扱っていくかをご紹介します。

予想外の出来事とは

 予想外の出来事と一口に言っても、いくつかのパターンがあるようです。まずはパターン分けをしてみましょう。

スケジュールの変更

 これが一番身近に感じやすい例でしょう。「15時から会議」を予定していたのに、当日、当然「14時に変更」と言われるなどの出来事です。日常的に起こることですし、変更が一切ない環境はありえないでしょう。この時の動揺は準備をする時間がなくなることや、他のスケジュールとの調整に関することによって生じる事が多いかと思います。

相手の反応が普段と異なる

 優しかった恋人が、今日会ったらとても冷たい…。なんてことがあったら不安になり自分に落ち度があっただろうかなどと思案します。相手の反応がいつもと異なる場合も予想外の出来事に遭遇したと言えるでしょう。この場合は、これまでの相手を失ってしまうのではないかという不安や、自分にも普段と異なる姿勢を求められる緊張感が動揺の背景にあるようです。

形式やルールの変更

 いつもと同じやり方で深く考えずに取り組んでいたことが、ある日突然ガラッと変わってしまったら当然驚きます。普段書いている日誌のフォーマットが変更になっただけでも、きっと大きな動揺を誘うことでしょう。慣れるまでは不安を感じますし、その変化に怒りを感じることもあるはずです。

理想の未来と現実の齟齬

 実際に思い描いていたイメージと現実が異なる場合も予想外の場面です。たとえば、希望する部署に入れなかったとか、予期せぬ職に従事することになったなど、自分がずっと思い描いていた未来と異なる道を歩かなければいけないとしたら、これは予想外の出来事と言えるはずです。一昔前の就職活動では「希望の部署に就けなかったらどうしますか」という意地悪な質問が定番でしたが、まさに予想外の場面へのストレスコーピングについての質問だったようです。

 家庭環境や生活様式などにも関わることであれば、当初の混乱だけでは済まずに慢性的なストレスにつながることもあるでしょう。

気持ちの反応は?

 予想外の出来事に遭遇した時の人間の反応は、まずは停止です。状況を理解するために一呼吸を置く必要が生じます。不安や苛立ち、焦る気持ちを抑えて、理解のために冷静であることに努めるのです。自分の気持ちを制御し現実を眺めることが求められるわけですが、どうもこの段階のつまずきが混乱につながりやすい様に思います。感情を抑えることに使うエネルギーは決して小さくはありません。予想外の出来事の影響が大きいほど、冷静になるためにエネルギーを要するのではないでしょうか。

動揺が強く出やすい傾向を持つ人もいます。

 予想外の出来事への負担が大きくなりやすい特徴を持つ心の症状もありますので、紹介していきます。

自閉スペクトラム症(ASD)

 発達障害の一つで、予想外の出来事や見通しの持てない場面での負担がとても大きいです。背景には想像することの苦手さがあります。日々変化が訪れる世の中で、混乱せずに対処していくことに多大な努力をしている方が多くいます。極力、変化がないように日常の流れを作っていくこと(構造化)が負担を減らすポイントとなります。

参考:発達障害の分類と二次障害について

全般性不安障害(GAD)

 名前のとおり、不安を感じやすい傾向を持っています。予想外の出来事に戸惑うだけでなく、予想外の出来事が起こるかもしれないという予期不安によって、様々な事柄に不安を感じやすくなってしまいます。思考の整理の仕方を考えることや、遭遇時に冷静さを取り戻す方法を事前準備しておく事が大切です。

強迫性に関連した行動

 強迫には特定の行動や思考を巡らせることで、何らかの感情から距離を取る手段という側面があります。環境の不変性を確認して落ち着かせたり、自分が環境に影響力を持っていると感じることで感情を収めているわけですが、予想外の出来事つまりは予定調和が崩れて自分が無力であると感じた時に感情を抑える手段を失ってしまうことがあるようです。

参考:強迫性について

パーソナリティ障害

 主に「予想外の他者の反応」に対して動揺を感じやすいのは依存性や境界性のパーソナリティ障害です。いつもと違う相手の反応によって、自分が嫌われてしまったのではないかとか、自分が愛されていないのではないかなどと感じやすい傾向があります。反応の仕方は人それぞれですが、予想と異なる他者の反応は強い心の揺れを生じやすくすると言えるでしょう。

参考:パーソナリティ障害の悩みと影響

動揺しない(ように見える)傾向の方

 躁状態や注意欠陥多動症(ADHD)の方は、予想外のことが起きてもあまり動じているようには見えず、むしろ、その状況に気持ちが昂っているように見えることもあります。しかし、これらの傾向をお持ちの方は刺激に反応しやすい特徴がありますので、あまり堪えていない様に見えても、その内面にはとても大きな波が生じていて、冷静ではないことがあります。

安心感が特効薬

 一般的に心に余裕がない時や、疲労が溜まっている時は変化を受け入れる心のスペースが小さくなるため、予想外の出来事に大きく乱されることになります。人間関係、家族環境、社会生活など日々の基盤を整えておくことは最も大事なことです。想像ですが、基盤が整っている環境は未来が予想通りに進むであろうと信じやすくなり、些細な予想外の出来事には揺さぶられないということなのかもしれません。

カウンセリングの視点

 カウセリング場面では、予想外の出来事のエピソードと、その時に生じた気持ちや不安についてまず聞かせて頂くことになるかと思います。そして、エピソードと反応の大きさの釣り合いが取れているかどうかを一緒に眺めていくことが大事な準備となります。上述の様に予想外の出来事に動じてしまう背景には、安心感の欠如が影響していることもありますので、生活状況なども聞かせてください。一般的に定期的なカウンセリングの時間は、それ自体が変わらない安心感を提供するものとされています。一週間のエピソードをお話しすることを続けていくことだけでも心の揺れを小さくできるかもしれません。

 また、カウンセリングの場面にはご紹介したような、なんらかの医学的診断を持っている方もいらっしゃいます。各々の方のご事情をカウンセラーが十分に理解した上で対処の方法を一緒に考えていくことが少なくありません。

おわりに

 予想通りにいかないことは世の常であり、この動揺から我々は逃れることはできません。持つべき視点は、どうすれば揺れに耐えられるようになるのか、出来事に対処する冷静さを持てるのかということです。多くの方が予想外の出来事が起こった時は一杯一杯で、後に振り返ることはしません。しかし、予想外の出来事が苦手な方は、振り返りの作業を十分にすることがとても大切です。

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