はじめに

 誰かに頼りたいとか甘えたいという気持ちは誰にでもあるものですが、この気持ちが過度になると、依存と言う言葉で表現されることになります。依存が何に向かうかは人それぞれですが、家族や恋人などを対象とした依存の場合は対人依存などと表現されることがあります。多くの場合、自立を妨げることになりますので、社会適応や内面の成長と関連した話題となることが多いです。

 本コラムでは、対人依存がどのような状態か、日常生活に及ぼす影響は何か、背景にはどのような事情が考えられるのかについての理解を深めていきたいと考えています。

依存症とは

 依存症と言われると、主にアルコールやギャンブルなどに過度にのめり込んで生活を破綻させてしまう様子をさします。厚生労働省のHPの定義では、

特定の何かに心を奪われ、「やめたくても、やめられない」状態になることです。

と記載されています。アル中などの言葉で揶揄されることもありますので、イメージを持ちやすいのではないでしょうか。依存症は嗜癖とかアディクションなどと言われることもあります。

 当コラムでも依存症についてまとめておりますのでご覧ください。(参考:依存に関する悩みについて)

対人依存

 今回は上記の依存症とは異なり、対人関係上の依存についてまとめる予定です。対人依存と言う言葉は造語かと思いますが、医学的には「依存性パーソナリティ障害」などの診断がつく方が該当するかと思われます(後述)。

 では、依存的な人と言うとどんな方を思い浮かべるでしょうか。恋人関係ではパートナーの前で決して自己主張せずに従順に従う傾向が強いことや、親子関係では子どもが親にべったりで何をするにも親の意向を確認する様子などが思い浮かぶかと思います。共通することは主体性の乏しさと言えるでしょう。

生活への影響

 対人依存の傾向が強いとどのようなことが起こるのでしょうか。以下で見ていきたいと思います。

自己選択に関する不利益

 主体性を持ちにくいということは、他者によって自分の在り方が左右されやすいことを意味します。保護者の極端な価値観に反抗もせずに取り返しのつかない人生を歩まされてしまうことや、恋人の趣味趣向を同じようになぞることなどが起こり得ます。

 他者の影響が自分の糧となるのであれば良いのですが、依存が背景にある場合は、自分が確立されずに飛び石のような繋がらない生活史を歩むことになるはずです。

人間関係上のリスク

 従順で過度に相手に合わせてしまう傾向は、時に悪意のある他者や思いやりのない相手から搾取される対象に選ばれることがあります。加えて、主体的な発信の苦手さは関係を長期間持続させる一因となることがあります。依存には変化をすることを拒む面もありますので、相手の意向で自分の将来が決定されるリスクを高めるものとなるでしょう。

どんな性格?

 依存対象となっている相手によって、表にあらわれる性格は幾らか変化するかもしれません。しかし、本来は内気で引っ込み思案の方が多いように感じます。中には他者と向き合うことを恐れがちで強い緊張を覚える方もいらっしゃるようです。一方で、努力家の方が多いようにも思います。相手に嫌われないためにという気持ちからかもしれませんが、自分を変えて状況に合わせていく努力を陰で頑張っている方が少なくないように思います。関連してですが、相手の気持ちや他者の人間関係(参考:他人の会話が気になる)を細かく観察しがちな傾向も感じられます。

悩めない悩み

 さて、これはご本人の悩みに関することですが、自分のことを悩めないという特徴が挙げられると思われます。思慮深く考えるのですが、それは依存対象となる他者との関係性であったり、相手の機嫌について心を巡らせることが中心となるため、本当の意味で自分のことで悩むということができません。自分のことで悩むということは一人になれることですから、彼らは「悩めない悩み」を抱えていると言えるでしょう。

依存しつつ依存できない

 少し書いてしまいましたが、対人依存の傾向が強い方の頭の中では、他者が多くを占めています。そして、自分と相手との関係について思いを馳せていることが多くなります。穏やかな時間が過ぎている間は、暖かく嬉しい気持ちになるのかもしれません。しかし、自分が相手から突き放されないかと言う見捨てられ不安が常に横たわっています。

 依存という関係は相手との対等な関係ではありません。依存する側は服従をする立場に置かれ相手の意向で運命が左右されてしまうことから、確かな人間関係とか絶対に切れない人とのつながりを実感しにくくなります。そして、実際に長く安定した関係を続けることが難しい方が少なくないようです。

 ただし、長く対人依存が続いている方には、依存しつつもどこかで冷静に期限のある関係性であると達観している様子を感じることがあります。依存しつつも依存できない心境は対人依存の本質ではないでしょうか。いつまでも確かな絆を持つ関係を得られないからこそ、求めて依存し続けるのかもしれません。

依存性パーソナリティ障害

 対人依存をより理解するために、DSM-5の「依存性パーソナリティ障害」を概観しておくことは必要だと思います。DSM-5では以下のとおり規定されています。

面倒を見てもらいたいという広範で過剰な欲求があり、そのために従属的でしがみつく行動をとり、分離に対する不安を感じる。成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち、5つ(またはそれ以上)によって示される。

1.日常のことを決めるにも、他の人達からのありあまるほどの助言と保証がなければできない。

2.自分の生活のほとんどの主要な領域で、他人に責任をとってもらうことを必要とする。

3.指示または是認を失うことを恐れるために、他人の意見に反対を表明することが困難である(注:懲罰に対する現実的な恐怖は含めないこと)。

4.自分自身の考えで計画を始めたり、または物事を行うことが困難である(動機または気力が欠如しているというより、むしろ判断または能力に自信がないためである)。

5.他人からの世話および支えを得るために、不快なことまで自分から進んでするほどやりすぎてしまう。

6.自分自身の面倒を見ることができないという誇張された恐怖のために、1人になると不安、または無力感を感じる。

7.1つの親密な関係が終わったときに、自分を世話し支えてくれるもとになる別の関係を必死で求める。

8.一人残されて自分の面倒を見ることになるという恐怖に、非現実的なまでにとらわれている。

 この基準を見ると、単に依存傾向が強いことと病理としての側面を持つ依存の程度が異なるものであることが分かると思います。ですが、記載されているほどではないが、私にもあるかもと思われる方はいらっしゃるのではないでしょうか。この基準に近い傾向がご自身の中にあると感じるようであれば、ご自身の生き辛さとして向き合ってみても良いのかもしれません(参考:パーソナリティ障害の悩みと影響)。

対人依存の背景として考えられること

 それでは、対人依存の背景として、どのようなことが考えられるのでしょうか。ここはG.O. Gabbard(2019)にあたると良いかもしれません。彼は、依存性パーソナリティ障害の研究をまとめ、幼少期に自立を拒絶される環境があったことや、感情表出が少ない家庭傾向が関連していることを見出した研究結果を紹介しています。

 また、私見ではありますが、見かけ状の対人依存というものも存在すると感じます。例えば先のイメージが持ちにくいとか、やるべきことや手順を頭の中で整理することが苦手などの発達障害の特徴を強くお持ちの方は、他者に判断を仰ぐ必要があるため、結果として依存的な人と誤解されることがあるように思います。

 さらに、うつや心的外傷により判断する能力が落ちている状況でもやはり依存的な様子を見せることがあるでしょう。しかし、この場合も理解ができる依存であり、また、対人依存が本質的な問題ではありません。

カウンセリングでは

 対人依存をカウンセリングで扱う場合は、カウンセラーへの依存が起きることが多いです。早い人ではインテーク面接の段階から急激に距離が近くなることもあります。これは、解決を目指す目標ではありますが、初期の段階ではカウンセラーに対して依存の気持ちを向けることは良好な関係を作る上で必要ですから、むしろ依存的になるくらいでも良いと思います。

 大事なポイントはある程度のカウンセリングを経てから訪れます。関係が続けば相手に不満を持つものですが、これはカウンセラーに対しても例外ではありません。この不満に気付いて、二人の間で言葉にできるようになることが非常に大切なことです。不満を言っても切れない関係を体験することによって、依存とは異なる確かな関係性を知ることができるはずです。

 これは、注意喚起のための発言ですが、カウンセラーが相談者の依存心や信頼感を利用してカウンセラー自身のために搾取するという報道がなされることがあります。対人依存に悩まれる方は、カウンセリング関係がこれまでの人間関係を反復していないかどうかに意識を向けておくだけでも自己防衛をしやすくなるはずです。そして、もし被害にあった場合は、遠慮なく資格協会などに連絡をしてください。

終わりに

 依存というのは決して悪い感情ではないはずです。人と繋がろうという気持ちは何よりも尊いものであるはずです。しかし、過度な依存は自己破壊的な面を含みます。自分と相手がwin-winの関係にならないのであれば、その関係に生じている破壊的な面に目を向けることが必要でしょう。

参考

  • G.O. Gabbard(著), 奥寺崇(監訳)(2019). 精神力動的精神医学 第5版, 岩崎学術出版社.
  • 厚生労働省のHP(外部リンク)
おすすめの記事