はじめに

 いざ、自分の心に向かい合おうと考えたときに、どの程度の時間の見通しを持てば良いのかと思われるのではないでしょうか。時間の見通しには、来室をする頻度と期間という二つのポイントがあります。今回は前者の面接の頻度に焦点を当てていきます。面接頻度を考える上での参考になれば幸いです。

頻度を決定するタイミング

 インテーク面接が終わると、早速、次回の約束をどうするかという話になります。そのため、頻度の悩みはカウンセリングを受ける決断をした時にすぐに訪れる悩みと言えます。実施をする心理療法によってはアセスメント面接を経てから正式な頻度を決めることもあります。それでも長く続く心への旅路の最初の時期に重要な決定をしないといけないことに変わりはありません。

頻度に伴う料金

 面接の頻度が増えれば当然かかる費用も増していきます。当ルームのように頻度が上がれば一回あたりの料金が値引きされる機関は少なくないように思いますが、それでも懐への負担が上がることに変わりはありません。お金の心配をされる方は少なくなく、毎週・隔週・月1回という選択肢があると、中間の隔週を選ばれる方が少なくないように感じます。頻度と料金の間で折り合いを付けた結果なのでしょう。ただし、隔週であることによるデメリットも存在しますので、そのことは知っておいた方が良いと思います。

高頻度と低頻度で何が異なるか

 面接の頻度が増すほどに心の奥深くに話題が及びやすくなることは間違いありません。反対に低頻度では心を題材にするよりも現実的な話が面接の中心となり、ときには前回セッションからの出来事の報告で多くの時間を使ってしまうことすらあります。心に分け入る面接と現実的な事柄を扱う面接のどちらが優れているということはないと思いますが、自己理解を得たいと考えていても月1回の頻度で面接を実施するのであれば、いつまで経っても目的が達成できないということも起こり得るのです。つまり、目的と頻度の間にミスマッチがあれば、結果として大きな不利益を被ることになります。

精神分析の実践が教えてくれること

 まずは、高頻度面接の代名詞とも言える精神分析を取り上げて高頻度の特徴を考えてみましょう。精神分析家のビオンの示唆を以下に引用したいと思います。

ふたつのパーソナリティが出会うときに、そこに情緒の嵐が生まれます。お互い気づくほど接触するのなら、あるいはお互い気づかないほど接触しても、その二人の結合によってある情緒状態が生み出されます。その結果として生じる動揺は、ふたりがまったく出会わなかった事態に比べて、前進したものとはまずもってはみならされそうにはありません。けれども、二人は出会ったのですから、そしてこの情緒の嵐は起こったのですから、その嵐の当事者二人は「思わしくない仕事に最善を尽くす」よう決心することなのでしょう。

 ビオンの言っていることは、精神分析を行うと激しい情緒の嵐が生まれるが、始まった以上は動揺を伴う思わしくない作業(=精神分析)を行なっていく他ないということです。高頻度になるほど、ビオンの指摘する状況が生じやすくなります。カウンセラーとの関係は密になりやすく、そこにこれまでの人間関係の歴史や、長年触れてこなかった情緒が生まれやすくなるためです。

 逆説的ですが、自己理解や自分の感情への気付きを求めるのであれば、ある程度の面接の機会を確保しないと難しいことも示唆されていることになります。そして、上述の通り、この作業は心の揺れを伴う「思わしくない仕事」にもなりえますので、頻度が上がることでより苦渋を伴う旅路となる可能性もあるのです。

 ビオンの臨床は週4日以上の超高頻度と言える面接が前提となっています。日本では、これほどの頻度の精神分析を受けている方は非常に少ないはずです。相対的にですが週1回の頻度でカウンセリングを行なっていれば、我が国では高頻度と言って差し支えないのではと思います。

低頻度面接の特徴

 隔週より少ない頻度ですと、現実の出来事を題材に、そこで生じた気持ちや思考の癖などが話題になります。そして、現実的な対応の仕方を検討することも一つの目的となり得るでしょう。高頻度面接と比較して情緒の嵐に飲み込まれにくくなることがメリットでもありデメリットでもあります。子育ての相談や会社での振る舞い方などの相談ですと、毎週という構造でなくても実施をしていけることがあります。ただし、可能であるということであって、変化や理解が進む速度を求めるのであれば高頻度であることに越したことはありません。(参考:カウンセリングの時間が持つ意味)

初期は高頻度の方がよい

 面接の目的が頻度を考える上での一つのヒントになる訳ですが、可能であれば初期はなるべく高頻度にして頂いた方が良いとは思います。カウンセリングが軌道に乗る準備のために、心に目を向ける習慣を作っていくとことと、カウンセラーがあなたのことをしっかりと理解することが必須だからです。そのために面接回数がある程度確保される必要があるのですが、低頻度だと必要な時間を確保できるまでの期間が長くなり、進捗がゆっくりとなってしまいます(参考:カウンセリングの過ごし方④・アセスメント面接)。

 開始初期は気持ちが急いでいたり、焦っていることも少なくないと思いますので、低頻度で開始をすると、カウンセリングの効果がいつまで経っても実感できないことでイライラすると思います。

高頻度のほうが費用対効果は高いかもしれない

 上述の理由を考慮すると、カウンセリングのスタートは、まずは週1回の頻度を確保しておく方が無難ではあります。カウンセリングを重ねてポイントとなるテーマが見えた際、ある程度の高頻度面接が必要なテーマであっても対応が出来ることもメリットとなります。

 カウンセラーの感覚として、このテーマは毎週であれば話題にしたのだけれど、今の頻度では触れられないと判断する場面は稀ではありません。そう言った意味では頻度が少なくなると、カウンセラーが行えることも少なくなり、結果として料金を抑えたはずが費用対効果が随分と下がってしまったということが十分に起こりえます。

頻度の途中変更

 ある程度、面接が進むと頻度を減らしていくという方法をとることがあります。この方法には賛否ありますが、休職などで一時的に休んでから社会に戻っていく過程では、徐々に面接の時間を確保することが難しくなることは、むしろ喜ばしいことだと思います(参考:復職までの過ごし方)。

 注意点は、毎週から隔週にするなどの頻度を減らす決断を行うと、これまでの話題を扱えなくなる可能性があることです。大事な話が強制終了してしまうことも少なくありませんので、ご注意ください。

面接頻度は応相談

 現実的な事情も絡む話ですので思い通りにいかないことが少なくないとは思いますが、是非カウンセラーの考えを聞いてみることをお勧めします。すでにカウンセリングを始められている方でも、きっとカウンセラーからは「この位の頻度で…」という提案がどこかでされているはずです。カウンセラーが単に儲けを求めているのではなく、これまで説明してきた視点を含んで頻度のご提案していることを知って貰えれば嬉しく思います。

参考

  • W, R, ビオン(著), 祖父江典人(訳)(2016). 新装版 ビオンとの対話―そして、最後の四つの論文, 金剛出版.

 

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