はじめに

 多くのカウンセリングルームではカウンセリングの欠席の際にキャンセル料を頂戴しています。しかし、このキャンセル料は、サービスが提供されていないのに何故支払う必要があるのかと思われる方もいらっしゃるようです。今回はこのテーマを取り上げたいと思います。

キャンセル料に関する一般的な動向

 これまで我が国ではキャンセル料という考え方が一般的なものではなかったように思います。冒頭で述べたように、サービスに対しての対価という考え方が強かったからかもしれません。しかし、最近では旅行や宿泊の際には事前にキャンセル規定が明記されるようになりましたし、飲食業界では予約しても来店しない問題が大きく取り沙汰されるようになり、キャンセル料を取り巻く議論が活発になりました。これは約束に対する日本人の考え方が大きく変化してきていることだと思います。

キャンセル料は何に対しての対価なのか

 では、キャンセル料の支払い義務はどのように理解するべきなのでしょうか。消費者は確かに何も得ていません。しかし、先程の旅行業界や飲食店ではその間にお客様の予約を入れることが出来なくなってしまう機会の喪失が生まれており、この逸失利益に対する補償の意味があるのでしょう。

 カウンセリングではどうでしょうか?逸失利益の補償という考え方もありますが、カウンセリングでは予約時点で時間を買うという契約が成立していると考えることが出来ます。この考え方ですとカウンセリング実施の有無に関わらず相談者は何かしらの利益を得ているはずですが、まさにその通りなんです。カウンセリングでは物品の売買とは異なりキャンセルをした時間でさえも自己理解を深める材料になり得ます。

キャンセルが意味するものを考える

 キャンセル料について考える前に、キャンセルが持つ意味や影響がどのようなものであるかを理解しておく必要があります。

 カウンセリングのキャンセルはカウンセリングの進捗状況を反映しているものと考えることが出来ます。例えばカウンセラーとの関係性を反映していることが挙げられるでしょう。日々の悩みとなっている人間関係が相談室の中にも生じてカウンセリングで扱えるようになったと考えるべき場面です。日常生活でも相手に良い思いを持っていないければ会いたくないですし、約束をドタキャンしたら、相手がどのように思っているかに想像を巡らせるのではないでしょうか。そして、次回会った時にギクシャクとしたやりとりから話が始まります。人間関係では約束をキャンセルしても無かったことにすることは出来ないのです。

 カウンセリングではキャンセルをした時に動いた気持ちを考えることや、この気持ちが日々どのように影響しているのかを考えることになります。キャンセルをすることで今まで見えなかった心の部分にスポットライトが当たることもあります。その意味ではキャンセルはサービスが提供されなかったというマイナスの側面のみが強調されるべきものではなく、カウンセリングの進展を促す可能性も持っているのです。むしろ全くキャンセルがないほうが何かを見せないようにしているのではと感じることすらあります。

キャンセルの背景にある気持ち

 次にキャンセルの裏側にある気持ちを考えてみたいと思います。

抵抗の働き

 まずはカウンセリングに来て話をすることに抵抗を感じ始めていることが挙げられるでしょう。これは自分の触れられたくない部分に話が近づいてきたり、考えたくないのに考えざるを得ない時期になってきたことで生じるものです。話が佳境に入ってきたと考えて間違いないのですが、その苦しみに触れることへの不安や恐怖が抵抗となって現れます。

参考:カウンセリングの困りごと2・話をすることに抵抗がある

カウンセラーに対しての感情

 理由がカウンセラーに対しての想いから生じていることもあります。話しても分かってくれないとか、激しい不満を感じているなどの想いは勿論、単にネガティブな感情を持っているでは済まない複雑な想いからキャンセルをする方もいらっしゃいます。これはまさにカウンセリングが深まっているために生じている出来事ですので、カウンセラーとの間で話題にできると理想的です。

当初の悩みが解決に向かってきたため

 カウンセリングの終盤になると、心の内を探索することから現実世界への適応を模索することに力が注がれるようになります。そのような時にはカウンセリングの重要性よりも現実の出来事を優先する気持ちが湧いてくることは当然です。支えを必要としなくなったサインとしてキャンセルが増えることもあります。

参考:カウンセリングの過ごし方⑦・後期

これまでの過ごし方と似たところはないか

 キャンセルとなった経緯を振り返り、カウンセリング以外の場でも同様のやりとりが生じることはないかを考えてみると良いでしょう。カウンセリングもお互いの約束によって成り立っています。この約束を自分がどのように捉えていたのか、あるいは、話が深まって触れたくない時にそれを避けるような動きをすることが多いのではないか。さらには、キャンセルがカウンセラーとの関係の深まりを避ける意味を持つのであれば、人間関係が深まることを自分がどのように体験しやすいのかなどが考えるポイントです。

キャンセル料に伴う怒り

 とは言っても、キャンセル料を徴収されることは決して心地よいものではありません。多くの場合、サービスを提供しないカウンセラーに対しての怒りを感じるのではないでしょうか。それは、自分を助けてくれるはずのカウンセラーが実は自分から不当な搾取をする対象に見えることでしょうし、心のケアと言いながらもさらに負荷をかけてくる悪い存在として映るかもしれません。

 この怒りはカウンセリング関係に波風を立てるものでもありますが、一方で、カウンセラーへの万能的な期待や依存からの抜けることを促す役割を担うこともあります。将来、カウンセリングを終わりにする上で、カウンセラーへの期待や依存から抜け出すことは必要になりますし、そのための礎がキャンセル料に伴う怒りによって少なからず作られていく部分があります。

無料であることによって生じる問題

 キャンセル料を支払うことに伴う怒りが、カウンセリング継続のハードルを高くしてしまうのではと考える方も少なくないと思いますが、不思議と無料でカウンセリングを実施しているほうがキャンセルの割合が高くなることを経験しています。そこにコストが掛かっていない分、通室することや当日にキャンセルすることの敷居が低くなるのでしょうか。継続して心の話を続けているとどこかのタイミングで来室をしたくないという気持ちが湧いてくるものです。そのような時に自分がお金というコストを支払っているとキャンセルの予防につながるようです。コストを支払うことが苦しい局面でも目を背けないためのお守りとして機能することがあるのでしょう。

参考:カウンセリングが有料である必要性とは

遅刻をしても料金が変わらないことについて

 止むを得ず遅刻をした場合であっても、基本的には料金は変わりません。そのため、キャンセル時と同じようにサービスが提供されていないのに料金が発生する時間が生じることになります。遅刻もキャンセルと同様の意味を持ち、遅刻をした理由を話題にすることが心を知るきっかけを作ることがありますし、焦ってルームに向かっている時の心境もまた重要なカウンセリングの題材となり得るのです。

皆勤賞での通室を目指さない

 キャンセル料は確かに痛手として感じられるでしょう。しかし、現実社会で生きていれば予期せぬ体調不良に襲われることもありますし、自分では抑えようのない感情の渦に飲み込まれることもあります。これを全てコントロールして必ず毎回行かなければいけないと鉄の掟を課してしまうのであれば、それこそ非現実的で強迫的な心が存在するのだろうと考えないわけにはいきません。10回の話をするために、11回分の料金がかかるくらいに思っていた方が無理なく続けられるのかもしれません。

 ただ、誤解しないで頂きたいのは、カウンセラーも出来ることならカウンセリングを実施して料金を頂きたいと考えている点です。払う方は痛手ですが受け取る方も何も感じていないわけではないのです。

キャンセルの責任

 交通網の発展によって地理的に離れた場所からカウンセリングに通うことが可能になった現代社会では、その全てをご本人の気持ちと関連付けられないとも思っています。COVID-19に見られたような大規模な感染症の普及は、ご本人の意図とは関係のないキャンセルが生じる可能性があること、そして、このキャンセルをどのように理解するかを心理業界全体が考えるきっかけになりました。これらのキャンセルに対してキャンセル料をご負担頂くことが適切かどうかは、我々カウンセラー側が今後考えていく課題でしょう。

 なお、当ルームでは交通遅延と体調不良については、それを証明する書類さえご提示頂ければキャンセル料は頂いておりません。後者については、病院に行く程の不調にはキャンセル料を請求しないと言う意味です。

おわりに

 キャンセル料の取り決めは以前よりも皆さんに抵抗なく受け入れられるようになった気がしています。逸失利益の補償という考え方が浸透してきたためでしょうか。しかし、カウンセリングではキャンセルをしたことも心を知るための題材として活用することが可能です。転んでもタダでは起きないではないですが、お休みも自分を知る素材として活用していこうという姿勢を持てるとキャンセル料も無駄なお金ではなくなると思います。

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