はじめに

 義務教育を終えて高校生になると考え方や心の有り様は大人に近くなります。保護者も中学生の時以上に我が子の個性を感じ、またその個性を受け止めていくことが求められるはずです。抱える悩みや生じる心の反応も大人に近いものとなるため、誤魔化しや気休めでは通用しなくなります。時には腰を据えて話し合う姿勢が求められるようになるでしょう。

多様性に富む高校生活

 高校は多くの方が受験をして入学をしています。必ずしも希望した高校に入学できるわけではないため、入学時のモチベーションは人それぞれです。近年では定時制や通信制の高校に通うお子さんも増え高校生活は多様化していると言えます。なかにはアルバイトを始めて、その時間が生活に大きな意味を持つようになるお子さんもいらっしゃるでしょう。中学生までは学校が生活の中心であり、学校での学習や人間関係の影響はとても大きなものでした。高校も学校が重要な役割を担うことは変わりませんが、コミットの仕方は個人の判断や状況によって変化していきます。

交友関係について

 高校生時代の交友関係は生活のスタイルによって様々な関係性が作られます。部活動に参加しているお子さんであれば、部活内の人間関係が中心になりますし、学外での交友関係を広げていくお子さんもいるでしょう。特に学外での人間関係を中心に据えるお子さんでは必ずしも同年代との付き合いに留まりません。アルバイト先の上司や、共通の話題がある大学生や社会人とのつながりを持つお子さんもいるでしょう。全く別の価値観や立場を持った人と共に過ごす経験は新鮮で、大きな成長に繋がるものです。将来のモデルとして自分より少し年上の人物に憧れることもあるでしょう。

 活動の範囲も一気に広がります。電車で遠方に向かうことや時には数人で旅行に行く計画を立てることも珍しくはありません。この活動性を止めることは出来ませんし、ある程度は大人が許容することが大切です。活動の大小がこの時期の子どもの心境を窺うための指標になることも多いですが、エネルギッシュな様子あるいは無気力で動かない様子など、活動の程度が保護者の悩みの種となることも少なくありません。

恋愛関係について

 高校生となると異性との交際が始まることは珍しくなく、未熟ながらも愛情を持って相手に接する姿勢を身に付けていきます。中学時代の男女交際は自分の理想を相手に重ねるような側面を持つことも少なくないのですが、高校生になると相手を慈しみペアとして過ごすことが出来る子どもも増えていきます。このことは子どもが自分本位な考え方だけでなく、相手の気持ちも考えられるようになったと言う成長の証でもありますので、歓迎されることではあるでしょう。真剣なお付き合いから、性的関係を結ぶことも珍しいことではありません。このことは家族の保護から離れて自分の大切なものを作るという成長に必要な側面ではありますが、一方で性的な関係に没頭し相手を想う気持ちが性的な欲求に覆われてしまう様子を見かけることもあります。

 また、学外での活動が多くなることと関連して、年上の異性との交際を行うお子さんもいます。中には一回り以上年上の相手とお付き合いをしている方もいらっしゃいます。この関係性については周囲の大人が気にかけておくことは必要でしょう。経験を重ねた社会人と高校生ではどうしても力関係が生じますので、一方的な搾取や傷つく体験へとつながるものではないかということに注意を払っておくことが必要です。

 高校時代の交際が生涯のパートナーとの出会いになるお子さんもいます。我が子が離れていくような気持ちを感じて寂しい想いをされる保護者の方もいらっしゃるかもしれませんが、一つの成長の階段だと考え、交際相手との関係を大事にする気持ちを支持する姿勢が求められていきます。

学習について

 中学生までは一定の学習が全てのお子さんに科されていました。高校でも卒業のために修めるべき学習の基準はありますが、実際には学校によって求められている水準はかなり異なります。と言うのも、高校の学習は将来を見据えて何が必要かを取捨選択することになりますので、必ずしも全てを理解する必要はありませんし、職業訓練などの技術の習得に注力する学校もあります。この時期の学習は出されたものを遂行することが目的ではなく、将来の道を思い描き、やるべきことを見定めることが必要になります。しっかりと学習を重ねる必要がある選択もあれば、学習は最低限という選択もあるかもしれません。ただし、卒業するための必修ラインはありますので、最低限を維持しつつ選択するということになります。特に単位制の学校ですと、しっかりと履修できているのかが保護者には不透明になることも多いので、それとなく確認をしてみることは必要かもしれません。学年末に全然単位を取れていなかったことが発覚することも稀な例ではないように思います。

進路選択

 学習と関連しますが、高校生の卒業後進路は大学や専門学校への進学か就職を選ぶことになります。選択によって卒業までの過ごし方も随分と異なるものとなるでしょう。大学受験をするお子さんは予備校に通い多くの時間を受験勉強に費やすことになるでしょうし、専門学校も分野によっては多大な準備が必要になります。就職する方は就職活動は勿論ですが、ある程度は自分の得手不得手を知っておく必要があります。文部科学省より高校生の卒業後の進路が公表されていますので、ご参考にしてみて下さい。(参考:文部科学省令和2年度学校基本調査)

この時期に生じる悩みや課題は

 高校生時代は生活や考え方の多様性に呼応するように様々な悩みや課題が噴出します。活動の範囲が増えることで人間関係のトラブルに遭遇することも少なくなく、最悪の場合は大人が知らないところで事件に発展していることもあります。近年ではインターネット詐欺やSNSで知り合った人物との間で生じる被害が報道されることも日常的に耳にします。いじめや暴行、性被害など被害者として事件に巻き込まれることとは逆に、非行や犯罪行為に加担させられて加害者になるということもゼロではありません。

 進路の選択では「自分とは何か?」「自分は何をしたいのか?」という問いと向き合うことになりますが、中にはアイデンティティが定まらずに不安定となるお子さんもいらっしゃいます。この時期には自分と他者の違いをはっきりと理解するようになるので、幼い頃より持っていた万能感を手放すことが必要になります。この現実を受け止めきれずに万能感にすがろうとして、友人との親密な付き合いに没頭したり、逆に引きこもって一人で過ごすお子さんもいらっしゃいます。

 医学的には統合失調症の発症リスクが高まる時期でもあります。様子の変化や言動の変化などには注意を払う必要があります。また、活動する力が強いので派手に症状を見せるお子さんもいらっしゃいます。激しい摂食障害や自傷行為、周囲の働きかけを徹底的に排除するほどの強迫行動などが現れることも稀にあります。逆に活動する力が落ちてしまうこともあり、抑うつ気分や無力感などの訴えに出会うこともあります。このような時はアクティブさを求められる高校生活は辛いものとなってしまいます。

心理学者の視点から

E.H.エリクソン

 中学生時期と同様に同一性の獲得がテーマとなります。異なる点は中学生の時よりも定まったルートが示されにくくなるので、迷う気持ちや悩む気持ちが強くなり同一性が拡散しやすくなることには注意が必要なでしょうか。いわゆるキャラが変わるということが起こりやすい時期でもあり、子どもたちも模索しながら自分の存在を確立していきます。この時の足元の不安定さは軽いものではありません。幾分は成長過程で必要なことではありますが、行き過ぎるとどのような自分で人に接すれば良いのかに迷い、対人場面での苦痛につながることになります。

J.E.マーシャ

 マーシャ(J.E, Marcia)は青年期の自我同一性の確立にあたって、自分の存在が揺さぶられるような危機を体験しているかどうかを調査しました。そして、自我同一性を獲得するためには自分の存在に疑問を感じたり模索したりする危機が必要であるとしています。しかし、危機が強すぎて耐えられないと、自我同一性は拡散してしまい、圧倒され自分が何者であるかということを確信しづらくなってしまうということです。これはまさに高校生年齢のお子さんが体験することであると考えられます。

高校生の時期に配慮すること

 高校生は社会人の入り口となる時期です。そのため、本人が自分で納得のいく選択ができるように、ある程度は放っておき自己決定を促すことが必要です。冒頭でも述べましたが、高校生の感覚はすでに大人に近くなっています。曖昧にして誤魔化すことは出来ませんので、何かを話題にする時は大人も本気で向き合う必要があります。それは、指示するのではなく個と個で腹を割って話をするという姿勢です。

 しかし、そうは言っても現実のトラブルや心理的な不調を呈することも多い時期ですので、何も関与しないわけにはいきません。日常のことを雑談として話ができる関係性を我が子と維持しておくことを意識しておくと良いでしょう。

参考

・文部科学省学校基本調査:( https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1419591_00003.htm )
・武藤 隆(2004). 心理学 (New Liberal Arts Selection). 有斐閣

 

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