はじめに

 カウンセリングを利用されている方の周りには、カウンセラー以外にも心配をしている家族や支えとなっている支援機関の方がいらっしゃることは珍しいことではありません。様々な立場から支えとなる言葉を頂けることは良いことでもあるのですが、多様な意見が混乱につながってしまうことも起こります。

悩みの解決を支えてくれる人は?

 カウンセリングに来る以前から家族や友人、恋人、職場の方などが、あなたの悩みについて継続して相談にのってくれているかもしれません。また、心身症状や休職などをきっかけとしてカウンセリングを開始されたのであれば、そこには主治医や行政の相談員との関わりが並行していることも考えられます。このようにカウンセリングを行ないながら、カウンセラー以外の意見にも支えられていることは一般的なことです。

異なる意見を言われることもある

 多くの場合は皆さんはあなたのことを思ってアドバイスや指摘をしているのだと思いますが、全くの真逆の内容を言われてしまうことがあります。例えば「今は養生してよく休むこと」と言われたかと思うと、別の人からは「今しっかりと向き合わないと」と激励されるなどです。このような状況では多くの人の思いやりは、むしろ負担に感じてしまうことでしょう。

板挟みになる負担

 各々が良い方向に進むことを願って言ってくださっているので、皆さんの意見を聞かせて頂き、それぞれの良い点を考えてこのような形で決断しました。」と良い部分を集約することができれば良いのですが、そのようなまとめ方が難しいことの方が多いでしょう。すると、誰かの意見を洗濯して、他の意見には感謝しつつもお断りしなければいけないことになります。断られた人はそこまで深く傷つくことはないでしょうけど、伝えにくいことは間違いありません。

 このように多くの人から意見が寄せられると、あなたに選択が求められます。普段なら何てことのない話かもしれませんが、心が弱っている時には複数の意見の板挟みになることは随分と負担の大きいものになるはずです。

三角関係の負担

 この場面での負担の本質はこちらを立てれば向こうが立たずと言う構図です。この関係性は私とあなたの二人の関係では起きないことです。そして、人間関係で悩みが生じる時は、このような三人の関係が根底にあることが少なくないように思います。例えば同僚が自分より評価されているとか、パートナーの浮気などはまさに三角関係です。子どもでもグループ内の人間関係に頭を悩ますことは少なくありません。様々な人に配慮する人間関係では、結果的に主体的な自分であることを求められるため、全面的に誰かに支えてもらうことができなくなるのです。

自分の人間関係を振り返るきっかけとして

 さて、このような場面で人並み以上に負担を感じる場合は、おそらく今までの生活の中でも三角関係の中での立ち振る舞いに戸惑い、なんとか努力を重ねてきた方が少なくないのではないでしょうか。カウンセリングで生じる困りごとをきっかけとして、職場の人間関係や友人関係を振り返ってみると今まで気づかなかった発見があるかもしれません。

 人間が最初に出会う三者関係は父親、母親、自分の三人の構造であると心理学では考えています。机上の論と思われるかもしれませんが、様々なアドバイスを眺めると父のような厳格な意見もあれば、母のような暖かさに満ちた意見もあるはずです。どちらの意見にどのように感じるかを考えることは、自身の中にある父母への空想へと想いを馳せるきっかけとなります。

自分に必要な意見を選べない心模様とは

 異なる意見が出ているときに自分で取捨選択が出来ないというのであれば、それはなぜでしょうか。

 決断ができない程に気持ちが憔悴している状況でなければ、そこには何らかの依存的な気持ちが働いていると思われます。他者に決断を委ねたい気持ちです。この気持ちは否定されるものではありませんが、自分の身を任せたい気持ちが他者に働くことに自覚的であることは必要だと思います。

 もう一つは、多くの相手に良い自分を見せておきたいという八方美人の心性が働いていることもあるようです。この場合、なぜ八方美人でいる必要があるのか、相手に良い顔をして置く必要があるのはどうしてかが話の焦点となりそうです。

選択をする苦痛

 様々な意見を寄せられて自分にとって最善の選択をすることは、自分が自立的であることを求められます。それは依存的な関係が叶わないことへの絶望であり、選択をするためには絶望に潰されず、異なる意見の中であっても自分を保ち冷静に考え続ける力が必要になるのです。

 この姿勢を持つためには、ある程度元気になっていることや自分に自信を持てていることが必要です。気落ちが波打っているときは自ら選択することが出来ないことも少なくありません。善意の意見が苦痛になる可能性をアドバイスをする側が理解しておくことが必要です。様々な意見が寄せられることによって選択を迫られることが、苦痛として体験されることがあるのです。

カウンセリングの役割

 それでは、カウンセリングではこの困りごとをどのように扱っていくのが良いでしょうか。カウンセリングは二人の関係から始まって、そこから自己決定ができるように変化していくことを支えます。初期であればカウンセラーに板挟みになっていることを伝えて、どのように考えれば良いのかを一緒に話せると良いでしょう。

 カウンセリングが進展していくと、カウンセラーとの二人の関係から離れて三角関係へと入っていくことになります。この頃になるとカウンセラーが現実的なアドバイスを行うことは少なくなっているはずです。

 基本的には考えることをお手伝いすることがカウンセラーの姿勢となりますが、家族の理解が必要であったり医療機関との二人三脚が強く求められる場面では、カウンセラーが直接やりとりをすることがあります。しかし、多くの場合はカウンセリングが進んでいくと、あなた自信が板挟みを解消する力を持てるようになって、カウンセラーが直接的なやりとりをする機会は少なくなります。

へ→