はじめに

 自分の悩みを解消するにはどのくらいの時間が必要なのかというご質問を受けることは少なくありません。多くの時間と費用が掛かるわけですから、気になることは当然でしょう。

 前回のコラムではカウンセリングの頻度について考えました。今回は開始をしてから終結するまでにかかる現実的な期間を扱いたいと思います。

面接期間とは

 毎週か隔週かの頻度の違いは面接に費やす時間の違いこそありますが、1年通うのであればどちらも1年間は悩みに向き合おうと気持ちを固めたことになります。面接と面接の間の時間も、話をしたことや連想が頭に浮かび、そのことに目を向け続けることになります。頻度の違いはあっても、1年間は自分の心への感度が高い期間と言うことができるでしょう。今回使用している「面接期間」という言葉は、このような感度の高い期間を指す言葉として用いており、インテーク面接から終結までの現実時間のことです。

 なお、面接がどのような経過を辿るものかについてもまとめてありますので、よろしければご覧ください(参考:カウンセリングの過ごし方)

期間が長くなることに伴う生活への影響

 当然のことですが、来室するためにかかる経済的・時間的コストは短期間の面接の方が少なくなります。負担が少ないほうが良いと考えるのは自然なことでしょう。また、悩みや負担を抱えながら来室するのであれば、その時間が少なくなってほしいと望むことも当然です。

経済的・時間的負担

 カウンセリングに要するコストを支払い続けることは非常に大変なことです。毎週同じ時間を空けておかなけなければいけませんし、安くない金額を手元に残しておくことが必要です。この負担が生活を圧迫する感覚を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、自分に余裕がない時にカウンセリングルームを頼って来られる方にとっては、負担が一層重いものと感じられるはずです。

心が揺れる負担

 さらに心の感度が高まることで、これまで目を向けてこなかった心の痛みや思い出したくもない過去のエピソードにさらされることにもなり、かえって辛い気持ちが増したように感じることもあるはずです。心が揺れることが生活に影響を与えることも考えられます。

 余談ですが、揺れがあまりにも大きいようであれば、面接の頻度を増やすという選択も必要になります。(参考:カウンセリングの困りごと11・面接頻度の決め方)

期間は短い方が良いのか?

 以上の影響を考えると、面接期間は短い方が良いではないかと言われてしまいそうですが、そういうわけでもありません。短期間での実施ですと悩みごとの解消や整理の時間が足りないこともありますし、表面的なお話をして終わってしまうことにもなりかねないからです。さらになるべく短期間で通室を終わらせようと思うことで、話の進行は急ぎ足になり自分の気持ちに十分に目を向けることが難しくなることもあります。

 歌手の宇多田ヒカルさんが9年間に渡って週に複数回の精神分析を受けていたという体験を語っておられます(「宇多田ヒカル 精神分析」などと検索すれば詳細が分かると思います)。宇多田さんはその時間の中で自分の心が豊かになっていく体験をしたとおっしゃっています。おそらく、この体験は短期間の面接では得ることができなかったものでしょう。

目標と期間の関係

 面接期間を規定する要素の一つに目標をどこに定めるかということが挙げられます。例えば、自分の考え方の癖を振り返りたいなどの目標であれば、比較的短期の実施となりますし、宇多田さんのような体験を目標にするのであれば必然的に長い時間が必要になります。はじめにカウンセラーと面接の目標を共有しておくことが必要でしょう。

 ただし、当初に目標を定めたとしても、話をしていく中でさらに考えたいことや知りたいことが見つかることは稀ではありません。短期間の面接を希望されて来室された方が、随分と長期に渡って来室されていることもあるのです。そのため、目標設定は(仮)という側面が常にあり、変化し得るものであると思っておくべきです。

不本意な面接期間

 目標や面接で扱いたい事柄が定まっても、様々な事情で面接期間を十分に持てないことがあります。例えば、仕事の都合や経済的な事情などはどうにもならないことでしょう。現実的な事情を無理に調整して利用することは面接期間を維持することが出来なくなりますので、初めから多大な時間を要する目標を立てるべきではないと思います。よくあることが有給休暇を利用して継続面接を行おうと考えることですが、この方法は必ず破綻するものです。

 期待する面接期間を捻出できないのであれば、それは不本意な面接期間と言わざるを得ません。ですが、人によってじっくり心に向き合えるタイミングがあると思います。まずは急ぎ扱わなければならない目標に焦点を絞り、準備が整った時期に改めて腰を据えたカウンセリングを行うことを考えることも一つの作戦でしょう。

期間を定めないこと

 一方、初めから期間を定めない方法もあります。我が国ではこちらの方が主流だと思います。その場合も、1年は継続できそうとか、当面の間は通うことが可能だろうなど、長期間に渡っての利用を自分が想定できるか、現実的に可能かどうかを考えておきましょう。数年単位で利用されている方の多くは、心の平穏を得るための振り返りを行うためなど、生活のリズムに面接が組み込まれているように思います(参考:カウンセリングの時間が持つ意味)。

 注意点としては、自分の心を豊かにするとか、これまで見ることのできなかった自分と出会うなどの結果を得るためには、期間を定めてしまうと難しくなることです。面接期間を定めるということは終わりを見越すということですから、どうしても目標思考的になってしまい脇道に目を向けにくくなるからです。

面接期間を定める上での注意点

 心を見つめる上で一番困るのは突然の来室困難です。というのも、このくらいの期間はお約束が出来るだろうという見通しを持って、我々カウンセラーも実施をしております。深い話をすれば、前を向くための心のケアの時間も必要でとなり、この時間を見越して面接期間は計画されているのです。そのため、突然の中断はケアされることなく心が開いた状態のままお別れをすることになりかねないので、とても危険です。

 現実的な事情が生じた時はもちろんですが、通うことが負担になっている時も遠慮なく話題に挙げてください(参考:カウンセリングの困りごと7・辛い気持ちが蘇る)

 そうは言っても、現実的に突然来室が難しくなることはあります。予期せぬ転勤や家庭環境の変化などがあるでしょう。そのような時でも、面接中断後の生活の仕方や留意点を確認するために一度はカウンセラーと会って話をしておいた方が良いと思います。

状況を共有しておくことが大切

 先ほども申し上げましたが、面接期間というのは設定した目標によって決まりますし、そもそも話をしている中で目標も変化していくものです。そして、現実的な事情から面接期間を十分に取れないことも生じます。今、自分がどのくらいの面接期間を持つことが出来るかはカウンセラーと共有しておいた方が良い情報です。そして、状況が変わっていないか、あなたとカウンセラーが描いている面接期間にズレがないかのすり合わせは適時行いましょう。

おわりに

 今回は面接を行う期間についてお話をしました。カウンセリングを希望される方の中には即効性を期待される方もいらっしゃいます。しかし、悩み事の内容によっては時間を要するテーマであることも少なくありません。開始初期の段階でこのバランスが釣り合うようにしておくことが、納得のいくカウンセリングを行う上で必要であることは間違いありません。

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