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睡眠障害とは
睡眠障害とはどのようなものかを調べてみると、山口祐司先生による「昼間の睡眠に支障をきたすような睡眠状態」という表現がスッキリしていて分かりやすいように思います。日常生活に影響を与えてしまうようであれば、それは心身を休めるという睡眠の目的が損なわれていることになりますので治療が必要となります。
睡眠障害の種類
DSM-Ⅴを確認すると睡眠障害は大きく10の障害と障害群に分かれています。
不眠障害
過眠障害
ナルコレプシー
呼吸関連睡眠障害群
概日リズム睡眠ー覚醒障害群
ノンレム睡眠からの覚醒障害
悪夢障害
レム睡眠行動障害
レストレスレッグス症候群
物質・医薬品誘発性睡眠障害
先程の山口先生の著作にあたってみると、睡眠障害は①過眠症状②不眠症状③概日リズム睡眠障害④睡眠時随伴症に大きく分けることができるとのことです。DSMの記述は詳細ではありますが、山口先生の記述のように大まかな括りの方がイメージがつきやすいかもしれません。
睡眠障害の多くは身体への治療や生活リズムへのアプローチによって改善していくようですが、カウンセリングの場でも睡眠に関する悩みをお話し頂くことがあります。不眠症状がもっとも多く、過眠症状を訴える方もたまにいらっしゃいます。今回はカウンセリングの場で出会う睡眠の課題に絞ってご紹介をさせて頂きたいと思います。
眠れないという訴え
不眠の背景が生活リズムや就寝時の眠りの深さの問題であると感じるのであれば、まずは睡眠外来を尋ねてみると良いでしょう。原因が睡眠の質が下がっている場合ではご本人が原因に気付きにくく、睡眠時間を増やそうと試みるが解決しないということが起こるそうです。眠りの質を確認するために第三者の目が入ることは有用です。
一方、不眠が何らかの心理的問題から生じていることもあります。うつ病などに代表される気分障害や、トラウマティックな体験や死別体験などによって不眠が生じることもあります。この場合は心療内科の受診や継続的なカウンセリングを受けることが必要になります。抑うつ的な気持ちや辛い体験をした後に不眠が生じるのであれば、心のケアが行うことが必要になります。
DSM-Ⅴでは
同日内で繰り返し睡眠に陥ること、1日9時間以上寝ても回復しないこと、覚醒後に覚醒を維持することの困難 / 入眠困難や入眠後の中途覚醒、早期覚醒があり、覚醒後に再度入眠することができないことが認められる。/ 生活を営む上で重要な場面で障害を引き起こしている。 / 睡眠困難が1週間に3夜起こり、3ヶ月以上持続している。
などの項目によって診断されます。
眠りすぎてしまうという訴え
十分に寝ているにも関わらず日中に眠くなってしまう方もいらっしゃいます。ナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。日中に急激に襲う眠気は日々の生活を維持する上で大きな障害となり得ます。
過眠も不眠と同じく、うつ病などに伴って生じる方がいらっしゃいます。ただし、うつ病の場合は回復途上で過眠が必要な時もありますので、過眠が生じる意味をよく考える必要があります。一方、カウンセリングや心理療法の途中で寝入ってしまう方をお見かけすることがあります。これは、寝るということがストレスエピソードからの回避という機能を担っています。急激に沸き起こる眠気は日常生活に大きな支障をきたすので、回避をせずに体験と向き合えるようになることが必要となりますし、カウンセリングの時間が向き合う機会を作ることになるでしょう。
DSM-Ⅴでは
入眠困難や入眠後の中途覚醒、早期覚醒があり、覚醒後に再度入眠することができないことが認められる。/ 生活を営む上で重要な場面で障害を引き起こしている。 / 1週間に3回以上起こり、3ヶ月以上持続している。
などの項目によって診断されます。
その他の睡眠に関連した悩み
睡眠の課題で大きな悩みとなり得る症状に、夜中に目が覚めてしまう中途覚醒があります。中途覚醒には就寝前の寝酒や、日中の覚醒状態がいつまでも解除されないなどの睡眠の浅さが原因となっていることがあるようです。こちらも覚醒の原因に心理的負荷がないかを考えることは必要になります。
また、カウンセリングでは悪夢の報告を受けることもあります。悪夢は「悪夢障害」という診断名もあり、悪夢によって社会生活上の著しい問題が生じることで診断されます。悪夢の内容の多くが命や尊厳の危険に関するもので、強い生々しさを体験します。夢は心理学ではとても大切に扱われており、この夢が表している心模様をカウンセリングの場で探っていくことが有効な場合もあります。
また、中途覚醒時に食事をしてしまうなどの症状がある方もいらっしゃるようです(睡眠関連摂食障害)。ご本人は自覚がないとのことなので解離の問題を強く疑ってしまいます。このような症状があることを考えると、睡眠時は普段意識されない自分の意志が活動をしている時間であることは間違いないのでしょう。
子どもの睡眠の問題
保護者の方からは、子どもの夢遊病のお話を頂くことがあります。多くの場合が成長と共に消失しますが、夜中にリビングに降りてきて声をかけても反応せずに動き回る我が子の様子が保護者の方を不安にさせることは想像に容易いものです。また、起立性調整障害などに伴う昼夜逆転も頭を悩ませます。こちらはご本人の自覚と努力が治療に必要となります。
睡眠の課題に対するカウンセリング
さて、ここまでご覧頂いたとおり、カウンセリングを必要とする睡眠の課題の多くはうつ病やトラウマ体験に伴う反応の一つであることが少なくありません。そのため、睡眠そのものを扱うのではなく、背景にある心理的な事情を話題にしていくことになります。
また、不眠の原因が深夜のスマートフォンなどによるものであれば、少しずつ生活を改善していくことで不眠の問題を解決していく方法も考えられます。これは行動療法の考え方ですね。
一方、睡眠には夢がセットです。フロイトは「夢は無意識に続く王道」と表現していました。先程の睡眠関連摂食障害や夢遊病などの様相はまさに、普段の自分とは異なる無意識の自分が前面に出てきたようにも見えます。夢分析などの心理療法を行なっていなくとも、気になる夢を覚えておいて、カウンセリングの場で話題としてみるのも良いかもしれません。
睡眠負債の考え方
近年、長期間に渡って睡眠時間を削ることによって、様々な悪影響が出ることが指摘されています。肥満や高血圧、糖尿病、がんや認知症の発症リスクを高めるという研究もあるようです。多忙な毎日の中で睡眠時間を確保することは現代人に課せられた難題です。
おわりに
睡眠障害は身体の課題ですがその悩みは相応の心理的負担となりますし、二次的な不利益につながる恐れも十分にあります。夜遅くまで活動できる現代社会では睡眠障害のリスクと常に隣り合わせですから、自己管理意識が大切なものとなるのでしょう。
参考
・Newton(2019年8月号). 睡眠の教科書.
・山口祐司(2019). 専門医が教える症状から見た睡眠障害の診断と治療. 現代書林.