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公認心理師資格の成立
カウンセラーを生業としている多くの方は何らかの心理系の資格を有しています(詳しくは①をご覧ください)。しかし、どの資格も民間資格であり国家資格は長らく定められないままでした。これまでの間に何度か国家資格制定の動きがありましたが、まとまらずに廃案になることが続いていました。しかし、2015年に遂に公認心理師法が成立し、2018年に初めての国家試験が行われ、28,000人弱の合格者を出しました。本年2019年8月にも第二回公認心理師試験が行われており、今後、我が国の心理業界の核となる資格となるのでしょう。しかし、まだまだ出来たばかりの資格のため混乱が生じているのも事実ですし、一部から批判の声も挙がっているなど、両手を挙げての歓迎という雰囲気ではありません。
資格を歓迎する人、しない人
さて、心理業界では長らく臨床心理士資格が大きな資格として存在していました。この背景には大学院までのカリキュラムの中で一定の質を担保された人材を世に送り出してきたこと、就業後も絶えず研修を行う体制を整えたことが信頼に繋がったのだと思います。しかし、心理業界には他にも多くの資格がありました。その資格を持っている方達が自身の能力を発揮しづらい体制であったことも事実です。公認心理師試験は5年を制度移行のための経過期間と定め、実務経験により受験資格を得ることができる特例を設けました。この特例により受験資格を得ることができたことは一部の方にとっては悲願であったはずです。
一方、資格が制定されて歓迎しなかったのは主に臨床心理士を持っている方々です。理由は色々ありますが、一つには心理士という立場が医師の指示のもとに動くことを求められ、心理士としての独立性が保証されなかったことが挙げられます。次に受験資格の特例が従来臨床心理士が守ってきた質の担保を脅かす可能性があったことです。要は色々な人が受験できるために、「心理の人」ということで世の中から期待される仕事が、人によって大きく異なってしまう危険が生じたのです。そして、最後に臨床心理士が幅を利かせてきた仕事に公認心理師が参入することによる競争激化です。こうやって眺めると、仕事の取り合いという側面が賛否にだいぶ影響しているようです。
公認心理師と臨床心理士の業務の違い
では、2つの資格は別のことを目指しているのでしょうか?ここで話題になるのが、両資格で定められている業務の違いです。大まかな表現になりますが、①相談業務、②検査業務、③地域支援は両資格で共通して定められているところですが、④となる業務では公認心理師が「心の健康についての情報の発信」となっているのに対し、臨床心理士では、「心の問題に関する調査及び研究」と定められています。公認心理師のほうがより世の中に対しての情報発信が強調されていますが、国家資格であるため社会へ還元されることが強調されるのは仕方ないのかもしれません。一方で調査・研究の担い手が少なくなると、心理業界全体が底の知れたものとなる危険を含んでいます。各公認心理師が知識を伝えるだけのスピーカーにならないための意識付けも必要そうです。
公認心理師資格の将来
以上のように心理業界では公認心理師資格の成立によって、やや騒がしい状況が続いています。実際のところ今まで心理の仕事をしていた人の仕事は大きく変化していないため、公認心理師資格による恩恵はまだありません。現在大学や大学院では公認心理師資格取得のためのカリキュラム作成に向けて活発な議論がなされておりますが、5年間の経過措置期間が終われば実質大学院を出ていないと取りづらい資格になると予想されます。長い目で見れば公認心理師の働き方ついて、社会が期待する「心理の人」と実際に提供される心理の仕事の間に大きな差はなくなり、一定の質を保証する体制が整うことは期待できます。同時に臨床心理士試験の受験資格を満たす方も多いと思われるので、公認心理師資格が出来る前とあまり変わらない状況に収束していくでしょう。では、心理業界にいる者にとってこの一件はどんな意味があったのでしょうか。思うに公認心理師が出来て社会への還元が強調されたことで、各心理士が社会成員の一員であることを自覚するきっかけにはなったのではないでしょうか。内的なものに目を向けることは大切ですが、そればかりでは社会が心理を受け入れてくれませんよということに気付くきっかけです。もう少し言うと個性的な人が多いこの業界で、我々はより社会性を持つことを社会から求められたのかもしれないと密かに思っています。
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