はじめに

 五月病という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。今年も時期が近づいてまいりましたので、予防の観点から五月病についてご紹介しようと思います。

五月病とは

 日本は5月上旬にゴールデンウィークがあり長期休みを取る方が少なくありませんが、休み明けに気持ちの落ち込みや体調不良などの症状が現れることを五月病と呼ぶことがあります。五月病の状態になると意欲が減退して、何事もやる気が起きない無気力の状態になります。休み明けのタイミングで突然登校や出社をすることが難しくなるため、周囲が驚くこともしばしばあります。

 お休みに至らない程度であっても、気持ちの落ち込みなどによって業務のパフォーマンスが著しく低下することもあります。時には叱責の対象になってしまい、辛い経験となる方もいらっしゃいます。

医学的には

 五月病は医療現場で使用される正式な診断名ではありません。医学的には適応障害やうつ病などの診断がつくことが多いのではないかと思われます。投薬治療が必要となる人から、時間経過によって気持ちが落ち着く人など、その程度も様々です。ですが、休み明けにこれまで出来ていたことが突然困難になるようであれば、心の中では何かが起きていることは間違いないと思いますので、受診をすることをお勧めします。

五月病の背景

疲労の蓄積

 4月は色々とバタバタするものですから、この1ヶ月は誰しも疲労が溜まりやすい時期です。活動している最中は気にならなくても、休暇中に身体の疲れを自覚し、脱力してしまうことも考えられます。疲れたら休もうとする身体の仕組みは当然の反応ではありますので、このような場合は、4月の過ごし方を振り返り、疲労との付き合い方を考えることが大切かもしれません。

性格によるもの

 五月病になる方は、普段から不安や緊張を感じやすい人や、過度に気遣いをしている人が多い印象があります。連休によって緊張の糸が切れてしまったという表現がまさに当てはまるかもしれません。(参考:気を使いすぎて疲れてしまう人へのカウンセリング)

 また、元々取り組みへの意欲が少なく我慢をして過ごしてきた方の中には、連休明けに突然興味を失ったように登校や出社が叶わなくなる人がいます。多くの人がこの先のことへの不安で頭が一杯になりますが、稀に気持ちに一区切りをつけたような表情をされる方もいらっしゃいます。側から見ると、どちらも五月病で間違いないのですが、ご本人の内面は随分と異なりますね。

環境変化への失望

 5月は新しい学校や学級、あるいは職場の異動などを経験して慣れてきた時期です。集団の雰囲気などにも目を向けやすくなりますから、理想と現実の違いにショックを受けることもあるかもしれません。「こんなはずじゃなかった…」という感覚を持つことは、前向きな姿勢を保つことを大きく阻害します。これもまた、五月病の一つの要因となり得るものです。

五月病との関連が見られる状態

 次に五月病が現実的にどのような悩みにつながりやすいかを見ていきます。

不登校

 連休明けは学生の足が学校へと向きにくくなることがあります。夏休みや冬休みなどの長期休み明けにも同様の傾向はあるのですが、五月病では特に新しいクラスのグループに上手く入れないこと、そして、毎日の登校に体力が付いていかなかったなどの理由が挙げられやすいかもしれません。

 学年が変わるタイミングは、誰しも新生活に期待を持つものです。イメージしていた環境が得られないことも、この年代で生じる五月病の背景としては無視ができないものです。

参考:不登校の経過と心理的意味について

出社ができない

 学生の不登校と同じような背景があるかと思いますが、社会人の場合は学生以上に新しい環境に溶け込む主体的な努力を求められます。過度な積極性を求められることは息苦しく負担になります。異動うつなどの言葉が使われることがありますが、これはまさに五月病を連想させるものでしょう。学生が人間関係や希望が叶わなかったという理由が前面に出やすいことに対して、過労や自分の能力の壁にぶつかることによる不調が社会人の特徴かもしれません。

 これは推測になりますが、社会人の転職は学生の転校よりも一般的です。そのため、五月病になって退職をしても、表向きは前向きな転職として扱われていることが少なからずあるのではと思われます。

引きこもり

 不登校であっても出社ができない状態であっても、これまでの環境が突然変わるものであることは同様であり、そのショックの大きさは想像に難しくないはずです。気持ちの落ち込みが続き長い引きこもり生活に入ってしまう危険もありますので、初期の過ごし方には注意が必要でしょう。

参考:引きこもりに伴う本人と家族の悩みについて

トラウマ体験

 うまくいかなった経験は生涯に渡って残るものです。その後のバネになることもありますが、あまりにもショックなことや理不尽な内容であれば、心の傷としてのみ残ることになります。新環境での人間関係の挫折がハラスメント被害を伴うものであったり、クラス替えによって突然のいじめ被害を受けることになれば、それはトラウマとして長く心に刻まれてしまいます。

参考:トラウマへのカウンセリング

五月病を予防するために

 五月病を予防するために大切なことの一つに、4月を頑張りすぎないことが挙げられるかと思います。新しい環境に適応しようとする努力は立派ですが、過度になれば心身への影響は大きくなります。また、一度上げた仕事のパフォーマンスを下げることは難しいため、結果、長期に渡って頑張り過ぎてしまうリスクもあるでしょう。(参考:過剰適応の悩みと苦しみについて)。全力を出すことを極力抑えて7割程度の力で過ごすことを意識できると良いかもしれません。

 どうしても振り絞る必要があれば、自分のスケジュールの中にリラックスする時間を作ることが有効です。ゆっくり映画を見て過ごすでも、仲間と食事に行くでも良いのですが、自分の内面や気持ちに目を向ける時間を確保することが重要になります。「時間が空いたらとか」「忙しいのでなかなか…」と言っていると実現はしませんので、仕事のようにスケジュールに組み込むことがコツです。

 もし心配があれば、休暇が明ける前日に会社や学校まで足を運ぶことも気持ちが切り替えるために良いと思います。休みが1日減ってしまうようで悔しい気持ちはありますけどね。

五月病になってしまったら…

 残念ながら休暇明けに身体の不調や気持ちの落ち込みを感じるようでしたら、焦らずに自分が出社や登校をして過ごしている場面をイメージしてみましょう。イメージが湧いて耐えられそうだと思うのであれば、足を運んで1日を過ごし、その日はなるべく早く帰宅しましょう。

 イメージが湧かず苦しい気持ちばかり感じるとか、涙が溢れてくるという状態であれば、それはもう無理は禁物のサインです。上司や担任にすぐに連絡をして状況を伝えてください。電話が苦しいようであればメールでも良いです。そして、すぐに病院に行きましょう。医師の診断書というのは、あなたが苦しい時に代わりに会社や学校に説明をしてくれるものになりますから、必ず一筆書いてもらってください。

カウンセリングでは

 カウンセリングの場面で五月病と出会うのは、休暇明けから少し時間が経ってからが多いかもしれません。不登校や休職の過ごし方についての悩みや、状況がいつまでも改善しないなどのご事情からご連絡を下さる方が多い印象があります。先程、ご紹介したとおり最初はまずは医療機関を訪れて、会社や学校での自分の立場を守ることを優先して頂きたいと思います。その後、時間が経過してもスッキリしない、苦しい気持ちが続いているということであれば、カウンセリングが有効なことがありますのでご検討ください。

おわりに

 五月病は頑張っている人に訪れるものです。努力は尊いものですが、心身を健康にして長く続けられるほうが結果として大きな成果を残すことができます。4月に無理をしすぎないことの大切さが伝われば嬉しく思います。

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