はじめに

 心理療法の効果はどのようなものなのか、果たして本当に意味があるのかという疑問を投げかけられることがあります。心理療法や心理検査が信頼に足るものかどうかを話題にした書籍を見かけることもありますので、この疑問は持っている方は少なくはないのでしょう。果たして心理療法の信頼性とはなんであるのかが今回のテーマです。

信頼性を保証する指標とは

 信頼性について、何を持って確認するのかは難しいところです。数量的データが信頼の指標として真っ先に上がりますが、例えば、ネットの口コミに一定の信頼性があると考えることに異論を持つ人は少ないでしょう。あるいは「あの人が言うから間違いない」という信頼できる他者との関連づけで信頼性が担保されていることもあります。つまり、信頼性があるかどうかということは非常に主観的な事柄であるということをまずは承知しておく必要があります。

 数量的データは最も客観性があるものではありますが、世の中はどのような手続きで結果が導かれたのかにあまり興味を示さないように感じます。そこにあるのは測定者を信じるという主観的な信頼性だとも思うのですが、屁理屈になりそうなのでやめておきます。

エビデンスという言葉

 客観的なデータに基づいて得られた信頼性のことをエビデンスと言います。元々は医療現場で使われていた言葉が医療以外の分野にも広がってきた経緯がありますので、この言葉を聞いたことがある人は少なくないのではないでしょうか。

 もとを辿ると、エビデンスとは物事の成功可能性を示す時の確率を表す言葉であったようです。最近ではより広く根拠や裏付けを表す場面で用いられるようになりました。その影響かは分かりませんが、何かあれば「エビデンスがあるのだろうか」と気にする我々の姿勢、転じて物事の客観的な信頼性を気にする姿勢に拍車がかかったような気がします。

主観的な信頼性から客観的な信頼性への変化

 このような社会の動きはカウンセリングの分野にも影響を与えるようになりました。最初からこの心理療法は効果があるのか?、どのくらい通えば変化が起こるのか?、カウンセラーの資格は何か?、などの問いが以前よりも増しているのはないかと思います。ここには上述の「この人は信頼できる」という主観的な信頼性よりも客観的な指標であるエビデンスを重視する傾向への変化が読み取れます。

 確かに莫大な時間、多額のお金を払って受けるものに効果がないのではたまったものではありませんので、このような疑問が生じるのは当然の心の動きだと思います。

心理療法のエビデンス研究

 カウンセラーは心理療法という専門的な技術を用いてカウンセリングを行います。この心理療法には本当に様々なものがあり、カウンセラーそれぞれに得意な心理療法というものがあります。多くの心理療法にはエビデンスがあるかを確認するための効果測定研究が行われています。

 話がこのコラムでまとまりきらなくなってしまうので、細かいデータの提示はご容赦頂きたいのですが、有名所では認知行動療法という心理療法でエビデンスが広く認められています。その他の心理療法でもエビデンスを証明する研究はありますが、どうも研究によって結果がまちまちであったりするので、心理療法は客観的指標であるエビデンスが確認しづらいという指摘を受けることにつながっているようです。

エビデンスベースドからオーダーメイドの心理療法へ

 では、エビデンスのある心理療法を行なっている機関のみを訪ねていけば良いカウンセリングが受けられるのでしょうか。結論からですが、必ずしもそうではないように思います。エビデンスというのは統計によって導かれるものです。多数の人に合致しますが結果を100%保証するものではありません。エビデンスがある心理療法に取り組んだのに改善しないことは稀なことではなく、細かいところがフィットしない感覚が段々と違和感や物足りなさとして感じられるようになります。これらの感情を覚えるようになってきたら、それはエビデンスを求める姿勢を見直すタイミングです。

 心と向き合う過程では恐怖や戸惑いなどの人間としての生々しい感情と出会うことになりますが、これらの体験が自己理解や症状理解のきっかけとなることは少なくありません。多くの人に当てはまる一般化した方法ではこのような深いところにある繊細な心の動きを捉えきれないことがあります。カウンセリングとは自分の気持ちに気付くこと、自分と向き合い自分のことを考える営みです。その時間を作る方法が心理療法ですから、十分に心を捉えることができなければ例えエビデンスがある心理療法であっても悩みの解決につながるほどの効果を得られないことになります。

 縫製された服からオーダーメイドの服を求めるように、カウンセリングが深まっていくにつれて必要となる心理療法も移り変わっていくように思います。客観的指標があることは万能であることとは違います。個としての自分を確立していく事を目指すのであれば、どこかで主観的な信頼に基づいた心理療法へとシフトしていくことになるでしょう。

心理療法を探す姿勢

 心理療法にはまだまだ研究による裏付けが必要なことは否めませんが、効果的な変化をもたらしているものは数多くあるはずです。推測ですが人によって適している方法が異なるため、一定の効果を見出すことが難しいのではと思います。エビデンスという太鼓判に振り回されることなく、自分の感じ方や自分の変化に目を向けて、自分自身が「これは効果がある」と信じられる心理療法に出会えるのが一番いいのではないでしょうか。これは主観的エビデンスとでも言えるものだと思います。

カウンセラーとの共同作業

 自分にどのような心理療法が合っているのかは最終的には結果論です。しかし、多くの場合はカウセラーは「このような部分に変化が必要だから、このように触れていこう」という仮説を立てて取り組んでいるはずです。本格的な心の探索が始まる前にカウンセラーから説明を受け、心理療法を進めていくかどうかを確認されることがあります。このやりとりを治療契約と言いますが、カウンセラーから説明がない場合は、こちらから問題点と今後の方針について尋ねてみても良いかもしれません。納得できる説明をするカウンセラーには信頼が持てるはずですし、この信頼が後のカウンセリングを後押しし、効果のある結果を生み出していくのです。

参考:カウンセリングの過ごし方④・アセスメント面接

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