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はじめに
私たちには一人一人異なる性格や行動の傾向があります。他の人はあなたの日々の振る舞いや言動を観察できるので、あなたがどんな人かを把握しやすいのですが、自分自身で眺めることは難しいため自己理解は得てして苦労することが多いです。
「私とはどういう人間か」「客観的にどのように見られているのか」という興味は我々の普遍的な問いであると言っても言い過ぎではないのではと思います。
人格(personality)とは
性格や個性と似たような言葉に「人格」と言う言葉があります。これは何でしょうか。諸説ありますがオルポート(Allport, G.W.)によると「個人の適応を決定する心身の精神力動的な体制のこと」だそうです。つまり、社会に適応するために個人が行なっている心や身体の反応パターンや構え方を統合したものが人格ということです。よく分かりませんね。ざっくりとですが「世の中に適応するために頑張っている個々の在り方」ということでしょうか。
大切なのは人格というのは適応を目的としているということです。身近なところで人格の意味を考えてみると、日本の学校教育では「人格の完成」が目標に掲げられていますが、これは「適応的に生きられるようになること」という意味なのかもしれません。また、パーソナリティ障害は「本来適応的に生活するための人格が何らかの理由によって不適応的に機能していること」と言えそうですね。
人格検査とは
上記のことを念頭に置くと個人の適応レベルを知ることが人格検査の目的だろうと考えられます。知能検査・発達検査が個人の知的能力の側面を知ることを目的としているのに対して、人格検査では個人の適応を測定の対象としているわけです。
ところで、今回このコラムを書くにあたり、「性格検査」なのか「人格検査」なのかということで迷いました。調べてみると「性格」は個人のある一部分の傾向を指す言葉であり、「人格」は性格の一部分に留まらず、考え方や思想、知的能力などを総括したより広い意味を持つようです。しかし、ミネソタ多面人格目録(MMPI)は人格検査で、モーズレイ性格検査(MPI)は性格検査ですし、個人を総合的に見ているとは言い難いPFスタディやゾンディテストは人格検査として位置づけられていますので、あまり厳密な定義ではないのかと思われます。ただ、人格検査の方がより広く個人を捉えようとしているようなので、今回は人格検査で統一させて頂こうと思います。
人格検査の歴史
人格の研究は古く古代ギリシャまで遡ります。近代になると人格のタイプを定義しようとする研究と、人格がどんな要素で構成されているのかを探求する研究が行われるようになります。現在利用されている人格検査にはこれらの研究結果が反映されています。例えばYG性格検査は多数の質問項目(性格を構成する要素)に答えて、結果は5つのタイプで表されます。
人格検査の長所と短所
検査によって個人の人格の大まかな傾向を捉えるものから、無意識より湧き上がる力動や防衛を把握しようとするものなどターゲットとなる対象の幅が広いことが人格検査の特徴かもしれません。より多層的に人格を理解できる手段があることは長所ですが、幅が広すぎて人格という言葉が何を指しているのかが曖昧になってしまうことは短所でもあります。検査実施者がそれぞれの検査の特徴をしっかりと把握して判断することが求められますし、検査者の判断によって見ようとする側面が変化することを知っておくと良いでしょう。
人格検査の種類
人格検査は2つのタイプに分けられます。それぞれ紹介したいと思います。
質問紙法
質問紙法は、質問用紙に書かれた文章問題を読み、自分の思うところを答えるものです。その性質上、自分の意識に浮かぶ範囲の回答にとどまるため、より表層的、自覚的な側面を扱っていると言えます。MMPIやYGテストなどはこのタイプになります。実施の疲労はありますが自分で意識的に答えられる範囲を測定するので、心を揺さぶられることはそれ程ありません。
投影法
代表的なものはインクのシミが何に見えるかを答えるロールシャッハテストです。投影法では、ある反応の中にはその人の無意識の側面や防衛的側面が含まれており、そのような側面を吸い上げることで人格を査定していくという考え方をします。バウムテストなどの描画法やPFスタディなども投影法に含まれます。
実際に受けてみると分かるのですが、投影法は実施後の心理的疲労が顕著です。端的に述べると少し気持ち悪くなる感覚があります。理由は無意識部分に触れるということは、普段は見ることがない心の部分を外界に晒して眺めることであり、その中には外傷体験を伴うものや自分の受け入れ難い汚い面が含まれているからです。そのため、実施の負担に耐えられるかどうかを検査実施者が質問紙以上に注意する必要があります。
測定の仕方
人格検査は検査のタイプも実施方法も様々なので、測定方法は個々の検査でかなり異なりますが、その多くは知能検査と同じように一般的な反応と比べて、その人なりの傾向や特徴的な点を見出すことで理解が進んでいきます。しかし、知能検査と違い数量化できない反応も少なくないため、そこは検査実施者の感覚が頼りです。検査実施者は同じ検査を何度も行っており、一般的な反応のパターンや特徴などを熟知しています。つまり、検査実施者の感覚が物差しになるわけです。そのため、知能検査以上に検査実施者の腕が物を言うとも言えます。
検査を受けられる場所
人格検査が何を測定するかは検査によって異なることを先程述べましたが、このことは検査を実施をする場所やタイミングが異なることを意味しています。質問紙法は病院などの医療の場で用いられることもありますが、企業などで社員の様子を知るために用いられることもあります。例えば、入社試験で性格を問う検査を行うことがありますし、大学生などが行う適職検査や会社員のストレスチェックテストなども広義の人格検査と言えるでしょう。
一方、投影法には無意識の深い側面に入り込むリスクと実施の困難さがあることから、受けたいと申し出て受けることは少ないはずです。多くが精神科などを受診して治療の中で計画的に実施することになります。実施できる場所やタイミングが制限されている検査なのです。
余談ですが、ベテランの図工や美術の先生の中には、児童・生徒の描いた絵から性格の大枠を当てられる方がいます。先生方は意識をされていないのでしょうが、これは先程の検査実施者の経験が人格測定の物差しになることと同じ現象が起こっているのでしょう。
なお、当ルームではオンライン上での検査の提供も行っています。(オンライン心理検査のページへ)
検査を受けるにあたっての注意
さて、ここまでくるとお分かりかもしれませんが、人格検査実施の大きな注意点は投影法の扱いです。投影法は受ける側の心理状態を考慮することと、検査実施者が物差しとして機能できることに細心の注意を要します。自分の置かれている状況や心境を把握している信頼できる人や機関に実施してもらうことが大切です。もし初回で話も聞かずにいきなり検査をという相談機関があれば少し注意をした方が良いかもしれません。
また、質問紙では、実施時の状況によって回答が異なることは少なくありません。これは考えてみれば当然のことで、意識的に答えられる部分を答えているわけですから、その時々の様子によって変動はあるのです。なので、結果はあくまで実施時点での結果と考え、生涯にわたって普遍的なものとは考えない方が良いでしょう。
検査を有効に活用するためには
折角実施をした検査もその後に活用されなければ意味がありません。相談機関では検査の結果を基にして方針を決めるので、その後の相談や治療で役に立っているはずです。しかし、その結果がちゃんと自分にも伝わってきているでしょうか。もし、人格検査を実施したら結果がどうであったかを聞いてみても良いかもしれません。そのことで自己理解が深まり、今後の過ごし方のヒントを得られることがあります。
参考図書
- 中島 義明 (監修), 新・心理学の基礎知識, 有斐閣ブックス, 2005
- 東 洋(編), 心理用語の基礎知識―整理と検証のために, 有斐閣ブックス,1978.