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はじめに
中学生になると心身ともに急激な成長が見られます。思春期に入り第二次性徴が始まるために気持ちがとても不安定になることも特徴的な時期です。そして、大人で見られるような心の症状を訴える子どもが徐々に現れてくるのもこの時期でしょう。そのような背景のためか心理支援の重要性が小学校時代よりも高まります。
友人関係と恋愛関係について
中学生の友人関係は気の合うメンバーが集まった小グループが形成されます。このグループは閉鎖的な部分もありますので、親密な関係を作りやすい一方で、グループの中だけで共有される秘密が作られることも少なくありません。小学校高学年にもグループ形成の動きはありましたが、中学生になると大人の目が届きにくくなるので、グループが極端な方向へ進んでしまう傾向があります。例えば、非行グループ(最近はあまり見かけないですが)を形成することや、友達の意見を優先して家族を蔑ろにするなどの様子です。
また、親密な友人関係と並行して恋愛関係が生じることも中学生では珍しくありません。恋愛は心の成長を促すものですが、同時に傷つきを伴うこともあります。自己愛感情の高揚と破壊を行き来することになりますので、この揺れが心の反応として現れる生徒もいますし、時に精神病的な様相を呈することもあります。そして、この恋愛関係の中には将来に渡ってのパーソナリティの課題の端緒や親子関係の反復が見られることもあります。
友人関係にしても恋人関係にしても中学生の人間関係は不透明です。大きな出来事があっても、大人が知るのは事後報告ということも少なくありません。この不透明さを解消することは難しいですし、解消してしまうとそれは健康な成長を損なうものでもあります。ですが、何かがあった時に子どもが話を出来る関係を作っておくことは大切でしょう。
学習について
学習は小学校からの積み重ねが前提となっていますので、入学当初から学習に付いて行くことが難しい子もいます。中学校は定期試験がありますので、自身の学習の出来・不出来の現実と嫌でも向き合うことになるため、このことが大きな負担になるお子さんもいらっしゃいます。中学校の学習で遅れてしまうと、家庭学習のみで追いつくことは難しいと思います。授業のスピードも早く、さらに難解ですので一人で学習することは相当の想いがないと無理でしょう。また、小学生の頃と異なり、保護者が全教科を把握して教えることも難しいです。出来ることなら学習塾などの利用を検討した方が良いでしょう。
注意が必要な点は、小学校時代よりも通級や支援級などの教室外の環境を利用することが難しくなることです。これは、子どもが周囲の目を気にするなどの気持ちから、利用に強い抵抗を示すようになるためです。そのため、学校とは別の場所を利用することを考える場面が増えていきます。
進路を選択することでの成長
3年生になれば中学卒業後の進路選択を迫られることになります。東京都の高校進学率は 98.4%(平成30年度卒業生)ですので、多くのお子さんが高校に進学することになります。進路選択では、本人はもちろん保護者も非常に頭を悩ませることと思います。しかし、進路選択を経て一回り成長する子は少なくありません。進路選択は自分の現実と理想の折り合いをつけて納得のできる進路を自分で選ぶことを求められます。このことが主体的な面を成長させると共に、自分の身の程や限界という事実と向き合い、思春期の万能的な世界から抜け出すことになるようです。
一方、この進路選択を保護者がどのように支えるかは悩ましいところです。ただ、自分で調べて考えなさいと言うのではハードルが高すぎます。学校の調べ方を教えるのか、何校か選択肢を示すのかなど、やり方の程度はありますが、子どもが悩める環境を整えることは必要になるはずです。進路選択の機会を成長を促すための健康な悩みの場にできればしめたものです。
私立に進んだお子さんの悩み
小学校で私立中学を受験するお子さんも珍しくない時代となりました。しかし、私立に進んだお子さんは学区の公立中学校に進んだお子さんとは別の悩みを持ちます。その一つは知り合いのいない中で新たに関係を作っていくことです。多くの場合は戸惑いながらも友人関係を形成していきますが、中には内気で自分から声をかけられないお子さんにお会いすることもあります。ご本人に自覚があることも多いので、入学前の不安が高いようであれば自己紹介の仕方などを本人とシュミレーションをしておくと良いかもしれません。
次に学習については周囲も自分と同程度にできる子なので、小学校に学習成績と同様の評価が得られなくなります。お子さんによっては自尊感情が非常に傷つく体験となりますので、入学初期のタイミングで学習の様子をそれとなく聞いておいた方が良いかもしれません。
最後に電車通学による負担が挙げられます。常に周囲に人がいる環境の中でそのことに不安や恐怖を感じる子が時折見られます。激しくなればパニック障害や全般生不安障害などの心の症状に繋がる恐れがあるものです。また、もし不登校となってしまった場合は通学にかかる負担が公立中学以上にネックになることもあります。
中学生で見られる心の症状
以下では中学生に見られる心の反応や行動を紹介します。
不登校
中学校では小学校に比べて不登校の生徒が5倍程になります。不登校を未然に防ぐための関わりを学校だけでなく家庭でも持つことが必要です。(参考:不登校の経過と心理的意味について)
適応障害
心身の成長がアンバランスになるのが中学生の時期です。そのため、気持ちと身体の反応が一致しないことも増えていきます。教室に入れない、人前で言葉が出なくなってしまうなど日常生活に支障が出ている場合に診断されます。
また、起きたいけど起きられない、登校を頑張ろうと思っているのにお腹が痛くて動けないなどの訴えを聞くこともあります。起床の負担などが顕著ですと起立性調節障害と診断がつくこともあります。
強迫性と頑固な様子
強迫的な行動、思考の背景には怒りの感情を置き換えたり打ち消す役割があります。思春期頃から何かをきっかけに強迫を背景とした行動や考え方を示すお子さんがおり、その時のお子さんは概ね頑固で周囲の話が全く届きません。そのため、生産的な進展の話ができずにずっと同じ状況、変わらない現実に留まることになります。保護者の立場であればイライラするのは当然でしょうが、このような症状がある時は何かを見ないようにしているんだなと思うことが大切です。(参考:強迫性について)
対人関係に関連した問題
中学生になると人との距離の取り方に、その子らしさが見られるようになります。とても距離が近かったり、とても疎遠であったりです。勿論、それは個人の自由ではありますが、人との距離の持ち方が極端なお子さんでは、自分という「個」の成長が損なわれてしまうこともあります。この傾向が将来のパーソナリティ障害につながることがあるのですが、中学生ではその予感を感じさせる子もいらっしゃるように思います。(参考:パーソナリティ障害)
精神病的な様子
幻聴や幻覚を訴えるお子さんに出会うことも時にあります。統合失調症の初期症状は中学生頃から現れます。この場合、学校生活を過ごすことが本人の精神衛生上かえってよろしくないこともありますので、早めに医療を受診することが大切です。
その他
ゲーム依存や非行、性的な問題も中学生頃から増えていきます。どれも、言って治るものではないので、長期的な関わり方を考えることが必要になります。
心理学者の視点から
E.H.エリクソン
エリクソンの分類によれば中学生の時期は同一性の獲得がテーマとなる時期です。同一性とは自分が何者であるか、どのような人間であるのかなどの自分の存在に対しての確固とした認識と自信であり、自分の存在がそこにあることを認められる主観的な確信を指します。この同一性を獲得するためには、紆余曲折の様々な試みや失敗・挫折を経る必要があります。その過程を経て、いわゆる落ち着いた時期を迎えるのですが、同一性が定まらずに迷い続け、成人期まで模索が続く方もいます。当然不安定な心情が続くことになりますので、付随する心の反応を生じやすくさせます。
S.フロイト
フロイトの発達段階ですと、中学生は性器期になります。フロイトはあまり詳しく論述はしていませんが、この段階が成人としての到達地点としています。成熟した関係を作る力を持ち、創造的に振舞うことができる時期です。性的な関係を持てることは生産的な活動を営めることを象徴していると言うのです。現実的には今の社会で中学生が成熟した関係を持てるとは言い難いですが、大人の人格へと歩を進めていることは間違いないでしょう。
中学生の時期に気を付けること
中学時代は子どもの自立が急激に進む時期です。この自立は親の言うことを聞かない、反抗するなどの行動で表現されることがあるので、保護者が四苦八苦することは珍しくありません。大切なのは、ある程度の外枠は作りつつも、自由に過ごすことをなるべく許容し、子ども同士の人間関係が形成されることを止めないことです。一方で、上記の通り心が揺さぶられる出来事が増える時期ですので心理的な危機状況が生じることにも留意しておかないといけません。様子に変わりがないかを遠目からよく見ておくことが必要です。
参考
- 東京都教育委員会「統計・調査」(https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/administration/statistics_and_research/)
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