レジリエンスとは

 あまり聴き慣れない言葉かもしれませんが、ストレス社会の現代ではとても大切な指摘をしているのがこのレジリエンスの考え方です。簡単にお伝えすると「逆境にあっても心が折れないでいるための耐性」という意味で用いられます。例えば、災害に巻き込まれてしまったり犯罪被害にあったりなどの非常に辛い体験をした時に、著しく適応を損なう人となんとか立て直す人がいらっしゃいます。この違いに作用しているものがレジリエンスです。

持ち堪えるという考え方

 過度なストレス環境や苦境に立たされている時の対応として多く用いられる方法は環境調整です。つまり、防犯対策の徹底や風通しの良い職場を作るとか、相談体制を強化するなどです。もちろん、このような対策は必要なのですが、どうしても防ぎきれないストレスというものは存在しますし、人間関係などでは第三者が介入することが難しい場面もあります。そのような場合、他者の援助は望めず自分自身で課題と向き合うことになりますので、その負荷に持ち堪えられることが求められます。

 ストレス環境や逆境を未然に防ぐことや、予後のケアについては様々な視点が述べられてきましたが、心身の不調をきたさないようにする力を自身で持つという切り口は少なかったように思います。

回復力

 ストレスもそうでしたが、レジリエンスも元々は物理学の分野などで使われていたそうです。resistで、反発や弾力などの意味ですね。また、復元するなどの意味もあるそうで、心理学の分野ではこの点を強調して「回復力」と訳されることもあります。ストレスを感じて一時的に落ち込んだとしても、その後に元の適応状態に戻れる力という意味でしょう。

定義の曖昧さ

 さて、日本でレジリエンスの概念が指摘され始めてから、まだ20年も経っていません。提唱当初は定義の曖昧さが指摘されていましたが、現在でもあまり明確な定義は定まっていないように思います。なぜかと考えてみるとこの言葉の意味が「耐性」と「回復力」という二つの言葉を内包しているからなのかなと思います。ストレスを受けた直後に適応を維持したまま耐えることと、ストレスを受けて落ち込んだ期間を経てから回復することでは、最終的に適応するという結果は同じでも経過は全然違いますし、生じる心理的影響も全く異なるでしょう。この定義の曖昧さが研究を推し進める上でのネックになっているのかなとも思います。

必要とされる場面

 大雑把な括りですがレジリエンスを「心の耐性」と考えると、同概念が活用される場面はとても幅広いものとなります。例えば、うつや精神疾患、身体疾患などに直面したときや、震災や犯罪などによる突然の喪失体験が襲い掛かった時、あるいは何らかのハンディキャップを抱えながら生き続けることもまたレジリエンスが必要となる場面でしょう。

 大人では、過労や失職、家族の他界などの出来事は誰にでも訪れる可能性がありますし、子どもではいじめや発達障害との関連で論じられると思います。また、被虐待児が将来、自分の人生を生きるためにもレジリエンスは欠かせないものです。

素質?トレーニング?

 レジリエンスを身に付けるためにはどのようなことが役に立つのか。生まれつきメンタルがタフな人と、反対に繊細で傷つきやすい人がいます。もし、レジリエンスが生得的なものであれば仕方ありませんが、どうやら後天的に獲得できる部分もあるようです。

レジリエンスを作る10の方法

 APA(アメリカ心理学会)が公開している「10 ways to build resilience」には、レジリエンス獲得のために必要なことが簡潔にまとめられています。これを見ると、人間関係を保つことや積極的に外の世界に足を向けることなどの行動の指針、危機をどのように受け止めるかや自尊心を持ち続けることの大切さなどの認知的指針が含まれています。

 色々あるので、どこから手を付ければと迷う方もいらっしゃるかもしれません。どのような疾患でも言えることですが、孤独になり塞ぎ込むことで心の耐性を下げてしまうことは間違いありません。最初のステップは一人にならずに支えとなってくれる他者を見つけることが第一歩だと思います。

注意点

 APAが提唱している10の方法は突然逆境に置かれた場合、直後に行動指針とすることは難しく、ある程度の時間が経過して自身の気持ちを見つめられるようになってから活用されるものです。そのため、苦しい状況に直面した直後には心のケアをまずは優先することが必要になると思われます。また、元々レジリエンスが高い方はAPAの指針と同じ行動を意図せずに行っているのでしょうか。特に子どもの場合はどのように獲得されていくのでしょうか。この点はまだ明確にはなっていないようです。

 一番気になる点がレジリエンスの考え方は一歩間違えると当事者の責任論になってしまう危険があるところです。捉え方によっては「心(の耐性)が弱いから」という理屈がまかり通ってしまうことにもなりかねませんので十分に注意する必要があるでしょう。

カウンセリングでの活用

 カウンセリングではそもそもレジリエンスを獲得するための方法が随所に散りばめられているように思います。カウンセラーとの人間関係を構築することは大前提ですので、一人になることはありません。また、認知行動療法の視点であればAPAが指摘する点の多くの部分を話題とすることになるでしょう。そして、レジリエンス獲得のための土台を作るものは自尊感情でしょうから、支持的心理療法や精神分析的心理療法の視点が活用されます。このように考えると、カウンセリングを利用されている方は知らず知らずのうちにレジリエンスの獲得に向けての行動をしているようにも思います。

追記

 一つお伝えし忘れたのが、最近よく話題となるHSPとの関連です。繊細で傷つきやすく適応するための負担が大きい彼らにとっては、まさに「心の耐性」を身につけていくことは大きな目標となるでしょう。繊細さを手放すことは難しいでしょうが、折れない心を手に入れることをは生涯の財産になるのではないでしょうか。

参考

・石垣 琢磨(編)(2017). レジリエンス. 臨床心理学 17-5.
・APA「レジリエンスを作る10の方法」:https://www.mentaltoughness.partners/build-resilience/

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