カウンセリングで扱われる話

 カウンセリングは何か困りごとや悩みごとがあって相談したい、あるいは自分のことをよく知りたい、苦しい気持ちを除去して欲しいなどの気持ちが動機づけとなっていることが多いです。しかし、カウンセリングの中では直接的には関係ないでしょうという事柄を話題にすることがあります。そのような会話にはどのような意味があるのでしょうか。

生育歴を聞かれること

 相談に来て最初に関係ないのではと思われる話が生育歴かもしれません。生育歴とは自分が生まれてから現在に至るまでの生きてきた歴史です。カウンセリングの場では生育歴を詳細に聞かれることが多く、その話は時に数セッションに及びます。相談に来ている時点で料金が発生しているので、この数セッションも勿論支払いが生じますから、早く本題に入ってよと思われる方も少なくありません。「相談に行ったのに幼少期のことばかり聞かれた」という不信の声や怒りの声を聞くこともあります。

なぜ、生育歴を聞くのか

 直接関係のない話をずっと聞かれることで、カウンセラーに対して不信や怒りの感情を抱くのは当然です。これは、その意味を説明しないカウンセラー側の責任も多分にあるでしょう。生育歴を確認することの大きな目的はCoが相談者のことを知ることです。どのような人生を過ごされてきて、どのような人になったのかが分からないとカウンセラーはお手伝いをすることができません。生育歴を聞かれる時間は考えていくための下準備の時間という意味があります。

 生育歴からは、人間関係の持ち方、負担を感じる場面での対処の仕方、物事の考え方や捉え方、親子関係などに根ざすテーマ、自分の心に目を向ける力の有無などを知ることが出来ます。また、発達障害の方であれば、様々な困難の原因を知るために過去からの行動を確認することが必要になります。これらの情報が揃うことでカウンセリングの焦点が定まっていきます。

生育歴を語ることによる気付き

 目的としてはこれから始まるカウンセリングの下準備なのですが、少なくない方が自分の歴史を言葉にすることで気付けなかった気持ちを発見することがあります。昔と今では考え方がこんなに違ったとか、親との関わりの話をしているとイライラしてくるなどの気付きです。そこまで大きな発見にならなくとも、普段、自分の人生を振り返ることはそうそうありませんから新鮮な時間と感じます。

趣味の話を聞かれること

理解のきっかけに

 趣味や余暇の過ごし方が話題になることは少なくありません。自分が好きな話なので楽しい時間にはなったが必要だったのだろうかと終了後に思うこともあるでしょう。この趣味の話を扱うことには2つの意味が考えられます。一つは趣味の話や余暇の話をすることで、自身の興味のある対象への関わり方や向き合い方を知ることです。これはどこかのタイミングでカウンセラーから解釈や理解の形で伝えられることになるでしょう。

創造的な場を整えるために

 二つ目は問題の解決へと繋がる場を作り出すことです。趣味や余暇の話は自由であるために、そこに創造的な思考が産まれ、自分の中にある問題を切り抜ける力や新しい場に身を置く力を増強させることになります。また、趣味の話をカウンセラーとすることは空想の中で一緒に遊ぶことでもあります。ウィニコット(D.W.Winnicott)はこの遊ぶという時間が創造的な取り組みであり、遊ぶことがカウンセリングの中で何かを産み出すきっかけにつながると唱えました。幾分リラックスをした気持ちの中で心を動かすことで、普段では産まれないものが産まれるのです。

家族や友人のこと

 症状を除去して欲しいのに、普段の人間関係ばかり聞かれて症状や悩みそのものを話さないということも割とよく生じます。これは症状や悩みの背景に過去や現在の人間関係が影響しているため、どのようなやりとりをしているのかを確認するために話題にすることが多いです。また、心理学の理論では、幼少期の親子関係によって、自分自身を厳しく見る心や、何かを行うときの動機となる欲求が作られると考えることがあります。そして、その影響は親子関係を離れ、将来の友人関係や夫婦関係のあらゆる場面で働き続けます。そのため、症状と関係のない人間関係を扱うことで、普段は意識されていない心の有り様を知ることにつながりますし、このことが症状を作り出していることもあるのです。

性的なこと

 初潮や精通はいつか、初めての性行為は何歳か、今のパートナーとの性生活はどのように営まれているのかなど、とても人に聞くようなことではないことを聞かれることがあります。日常の場面であればセクハラと言われるでしょうが、カウンセリングの場面ではこのことが大切な情報となることがあります。なぜかというと、性的関係は心の成熟を表す指標であり、先程の遊びの話と同じように産み出す営みです。しかし、性が汚いものと感じられたり自分を傷つけるために使われたりすれば、その方の心の成熟を阻害する要因となりかねませんし、産み出す・創造するということが出来ずに停滞してしまう恐れがあります。

夢の話

 この話を無駄と感じる人と有意義だと感じる人は分かれそうですが、夢は無意識を映し出すと言われています。つまり夢の話をすることで自分が何を思っているのかを知る手掛かりが得られることがあります。もう一つ、夢の話で聞かれることが初回夢と言われるものです。これは、カウンセリングが始まって最初に見る夢で、カウンセリングやカウンセラーへの期待や不信、そして、カウンセリングの進行を暗示するメッセージが含まれていると言われています。

カウンセラーの話

 さて、カウンセリングの時間は本来相談者が話す時間ですので、カウンセラーが自分のことを話す場ではありません。しかし、時にカウンセラーが自分のことを話してカウンセリングを進行しようとする高度なテクニックを用いていることがあります。カウンセラーが自分の話をすることで相談者はカウンセラーを身近に感じます。これはカウンセリングの場を和ませて、考える場を作りやすくします。また、カウンセラーの話に自分と重なる部分があれば、自分の問題を外に置いて眺めるという構図を作ることも出来ます。

 しかし、カウンセラーがとても人間臭く見えるようになりますし、その人間臭さが時に不信感や頼れないという失望の気持ちにつながることもあるでしょう。意識的に自分の話を利用しているカウンセラーはこの不信感や失望にあなたが耐えられるかどうかを見極めてから話をしているはずです。

 稀に本当にカウンセリングとは関係なく談話のように自分の話をするカウンセラーもいます。ここにはカウンセラーの自己愛的な動機が働いているはずです。あまりにも続くようであれば、「私の話を聞いて下さい」と言って良いと思います。

関係のない話は長い目で見れば意味がある

 以上、見てきたように一見すると関係のない話でも、そこにはあなたを知るための手掛かりや悩み解決への糸口が含まれていたり、これからのカウンセリングの場を創造的で生産的な場とするための役割があります。関係のない話は一切したくないという姿勢を取るのであれば、そこは窮屈で新しいものが入る余地がなく、停滞を引き起こします。そして、そのような無駄を省く姿勢が症状の一因となっていることも少なくありません。関係のない話の中で泳いでみる、関係のない話と自分の感情を並べて味わってみる姿勢が大切です。ただ、どうしても関係ないのではという気持ちが払拭できないのであれば、カウンセラーに「なぜその話が必要なのか」と遠慮なく聞いてみてください。

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