はじめに

 技術の進歩によりインターネット回線を利用してのやりとり(=オンライン)がスマートフォン一台で行うことができるようになりました。この流れは心理業界にも影響を与えています。これまではカウンセラーは会えないと何もできないというのが常識でした。しかし、コロナウィルスの感染予防を目的とした全国的な外出自粛要請の影響を受け、zoomなどの会議ソフトを用いてカウセリングを行うカウンセリングルームが増えているようです。

カウンセリングへの影響

従来のカウンセリングでは、カウンセリングの時間や空間などの「枠」そのものが実施に必要なツールとなっていました。そのため、カウンセラーは面接の決まり事や部屋のしつらえに大きな関心を払います。しかし、オンラインカウンセリングは従来の「枠」の考え方が適用しにくくなるものです。いわば、新時代のカウンセリングの「枠」と言えるものですが、この利点と課題点を順に考えてみたいと思います。

利便性

 言うまでもなく、オンラインカウンセリングであれば、直接会うために要する移動の時間が不要です。これは相談者の立場でもカウンセラーの立場でも大きなメリットです。中には、特急や新幹線を利用してカウンセリングにいらっしゃる方もいますので、そのような事情がある方の時間的、金銭的負担を減らせることの意義は大きいでしょう。また、様々な理由により外出の負担が大きい方もカウンセリングを受けることができることはメリットの一つです。家族が相談に行き「本人が来ないと何も出来ない」と言われたという話を聞くことがありますが、オンラインであれば話すことが出来るという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

課題

 オンラインで話をしていて困ることが、話すタイミングです。人間は言葉以外の仕草や行動で相手の気持ちを察します。A. Mehrabian(1971)の研究では、相手が話をしている時に聞き手がメッセージの意図を汲み取るための手がかりは、ボディランゲージ55%、声のトーン38%、言葉の内容7%という指摘をしています。内容よりもその他のウェイトが大きいという指摘は決して軽視できるものではないでしょう。これらの手がかりが少なくなることで途端にやりとりのスムーズさが損なわれます。オンラインカウンセリングではモニター越しに相手の顔は映りますが、若干のタイムラグが生じることや画面の中だけの限られた情報という制約があり、このことが相手の意図を汲むための手がかりを少なくするように思います。オンラインのやりとりを実際に行なった方の中にはこの違和感を体験された方もいらっしゃるのではないでしょうか。ただし、この違和感の程度は個人差もあるようです。そのうち、社会心理学の専門家の方達が調べてくれると思うので、続報を待ちたいと思っています。

 そして、カウンセリングの方針によってはこのことが無視できない事情となります。事実関係の報告や、カウンセラーから心理面のアドバイスを受けるなどが主となっているのであれば比較的課題は少ないのですが、心の深い部分を探索していくような作業にはどうしても向きません。それは探索するための手段がカウンセラーとの関係性を題材にしており、人間らしい泥臭さのようなものがどうしても必要になるからです。相手の意図を汲むための手がかりが減るオンラインではどうしてもこの泥臭さが生じにくくなります。

場所の問題

 多くの方がオンラインでカウンセリングを受けるとしたら自宅の一室を利用することになるでしょう。その部屋が確保できれば良いのですが、家族がいたり、部屋を映すことの抵抗があったりなどの理由から思うようにいかないことは少なくありません。また、デリケートな話題を扱うため、家族に知られたくないという気持ちを持つ方も少なくないと思います。

 一方、カウンセラー側からすると、オンラインカウンセリングは小さい部屋が一室あれば可能であるため提供がしやすいものです。現に、オンライン専門で行なっているカウンセリングルームの存在も見かけますし、一人用のレンタルオフィスの一室を用いて事業を行なっている方もいらっしゃるようです。ただし、このことはカウンセラーの質が担保されにくくなるという相談者側の不利益ともなり得ます。

電話相談との違い

 当然ですが電話相談では顔は見えませんが、パソコンなどを用いるオンラインでは顔を映すことになります。ある程度の身なりを整える準備が必要になりますので、電話相談よりも引き締まって開始することができそうです。また、匿名性も電話ほどにはありませんので相手との関係を継続していく土台は作りやすいでしょう。一方、自分のプライベートがカウンセラーに見えてしまうことで、カウンセラーがプライベートに介入してくるという錯覚が生じやすくなるようにも思います。また、空想が私的な空間を侵すという側面も否定できません。

どのように利用するか

 非常時においてオンラインカウンセリングは有効な手段だと思います。しかし、上記のような課題があることも否定できません。現代社会の便利とは戸惑いが少ないこととイコールのきらいがありますが、カウンセリングは戸惑う中で何かを見つける作業です。カウンセリング後の帰路で生じる様々な気持ちなども発見のための大切な時間となります。公私が一瞬で切り替わってしまうことはそれらの戸惑いが切り落とされてしまうことは否定できません。当初からオンラインカウンセリングを行う契約となっていなければ、あくまでも補助手段として考えた方が良いでしょう。補助と考えれば非常に有要な選択肢です。

今後のカウンセリングへの活用

 現段階では上記の事情があり、従来のカウンセリングと同じ質のものを提供するのは難しいように思っています。しかし、世の中の変化を考えるとカウンセリングにIT技術を取り入れることは避けて通れないでしょう。とすると、AR技術などを用いて、あたかもそこに相手がいるようにすることや、カウンセリングルームを投射するなどの方法が考えられるでしょうか。興味深いですが、これでも対面には及ばないように思いますが、どうでしょうか?これは心理業界の今後の課題でしょう。

*なお、当ルームでは現在オンラインでのカウンセリングは行なっておりません。