はじめに

 昨今、薬物依存やゲーム依存などのニュースが報道されることは多く、対応の必要性が指摘されています。一方、支援には医療や矯正施設などの社会資源の充実が求められますが、まだまだ十分とは言えない状況です。

依存とは

 依存とはニコチンやアルコールなど特定の物質に度を超えてのめり込む「物質依存」とギャンブルなど特定の行為に没頭する「プロセス依存」があるそうです。どちらも日常生活に支障が出る程度であれば「依存症」と言ってよいでしょう。

 依存する対象がなくなると、気持ちがイライラする/落ち着かないなどの精神面への影響や、身体が震えるなどの身体面への影響が現れ、ない苦しさに耐えきれず再び依存物質や行動に手を伸ばす循環に陥ってしまいます。治療が困難を極めることは様々な報道で指摘されており周知の事実となっていますが、一点明記しておきたいことは依存から抜け出せない原因をご本人の意思や努力に求めることは、ご本人を責めているだけで結果に繋がらないということです。

様々な依存

 続いて、依存と言われるものにどのような種類があるかを見ていきたいと思います。

薬物依存・アルコール依存

 これらはDSM-5では物質使用障害として診断されており、過去12ヶ月の様子を振り返って該当する項目を満たせば依存症と判断されることになります。物質依存から自力で抜け出すことは相当に難しいはずです。日本ではダルクという依存症の方の治療施設がありますが、ここでは依存症で苦しむ方が集まり、お互いを支え合いながら再発を防ぐ努力をしておられます。

ゲーム依存・ギャンブル依存

 この2つは先程のプロセス依存にあたります。2020年にはWHOがゲーム依存を病気と規定すると発表したことが話題となりました。最近のゲームはいわゆるガチャの採用などもあってギャンブル性が非常に高くなっています。成功した時に人間の脳内に分泌されるドーパミンという快感をもたらす成分によって、行為がやめられなくなることがギャンブルにハマる仕組みです。学習心理学では一度習慣化された行動を消去するために必要な時間と報酬の関連を研究しています。その結果、報酬がランダムに与えられる方が消去はされにくい、つまり依存から抜け出しにくいことが指摘されています。このランダム性はまさにパチンコやガチャが採用している仕組みです。

自傷行為

 リストカットなどに代表される自傷行為は最初こそは、誰かに助けてもらいたい、寂しくて耐えられないなどの心の叫びですが、長期に渡って続けることによって、当初の悲痛なメッセージから離れてプロセス依存となります。

 自傷の背景に脳内麻薬エンケファリンの存在を指摘する説があります。脳内麻薬が分泌されることで傷の痛みと併せて心の痛みにも鈍感になることが可能となるため、苦しみからの解放を求めて自傷行為が行われていくようになります。自傷が徐々に激しさを増していく背景には脳内麻薬への耐性がついてきたと考えることができそうです。まだ仮説ということですが、非常に興味深い指摘だと思います。このことについても松本先生(2009)の本で詳しく紹介されています。

参考:自傷行為の悩みと背景について

対人関係や恋愛への依存

 恋愛依存という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。これは自分の中にある空虚な部分を他人に満たしてもらいたいという気持ちが背景にあることが少なくありません。受け入れられたという感覚は人間にとって大きな報酬となり得ます。自尊感情が低いと自分の存在を他人に受け入れてもらうこと解消しようとする動きが現れますが、これは自分の空虚さを外の対象で埋めて機能できるように維持しようとしていると考えることができます。このことは、依存性パーソナリティ障害との関連においても無視はできない視点です。

参考:自信が持てない人へのカウンセリング

その他の依存

 他にも買い物依存、万引き依存、性依存、ニコチン依存などがあります。摂食障害も依存症との関連がありそうです。

依存症になりやすい人

 同じ行動をしていても依存症になる人とならない人がいますが、それは何故でしょうか。理由の一つにはストレスが生じたときに支えてくれる相手がいない「孤独」が挙げられると思います。辛いことや負担を誰かに預けることができないため、負担から一時的に距離を取る手段として依存心が動き出すわけです。孤独を許容できる範囲は個人差がありますので、同じ状況でも依存症になりやすい人とそうでない人が出てきます。また、周囲に人がいるという事実があっても主観的な孤独を感じていれば、リスクは上がることになるでしょう。

 松本俊彦先生(2018)は薬物依存を「孤立の病」と指摘しています。再発する時にも孤独感が継続していることが背景にあり、予防のためには人を孤独にしない社会を作ることが大切とのことです。これには国を挙げての体制づくりが求められるでしょう。

参考:孤独の苦しみへのカウンセリング

依存のきっかけは

 恋人との別れや失業などの現実的な負担が依存症の始まりとなることもあれば(参考:喪失の反応と留意点)、自分の心の空虚さや絶望感、制御できない衝動などに突き動かされて手を伸ばす方もいらっしゃいます(参考:虚しさへのカウンセリング)。

 きっかけが現実の出来事か、自分の内面から湧き上がってくるものかは人によって異なりますが、多くの方に孤独を埋めたり誤魔化すことをしないと自分が押し潰されてしまうという切羽詰まった焦りのようなものがあるように感じることがあります。

 また、人間関係を維持したいという切ない思いが背景にあることもあります。例えば仲間との関係が途絶えるのが怖かったから勧められるままに薬物を使用したと説明する方がいます。このような場合は、人とのつながりを求める気持ちが最初のきっかけとなっていると考えることが出来そうです。

社会の動き

 2020年度にギャンブル依存治療への保険適用を認める方針が発表された際、賛否両論あったことを記憶しています。しかし、ご本人のコントロールを離れてどうにもならない程の苦しみであれば、公的支援を行うことは妥当な判断ではないかと思います。今後は治療にあたる人材の確保ができるのかが課題でしょうか。

カウンセリングで行うことは

 依存症の相談は非常に時間がかかり、中断することも多いことが特徴です。特に物質依存の悩みはカウンセリングルームのみで対応することは難しいでしょう。プロセス依存の方で相談にお越し頂く方はいらっしゃいますが、自傷行為などの危険が伴っていることもあり、ときには命に関わる危険をお持ちの方もいらっしゃいます。カウンセリングは少なからず心を揺さぶり負担を掛けるものですから、開始のタイミングを見定めることが肝要です。準備が整う前に初めてしまうと、高確率で中断を招き「また関係を絶ってしまった」という反復体験につながってしまうことも懸念されます。

 民間のカウンセリングルームを利用するタイミングは、ある程度の期間スリップ(依存行動を再発すること)がなく、かつダルクなどの機関を並行して利用しプライベートでの人間関係が整ってからが良いかと思います。

 人間関係や恋愛関係での依存で悩まれている方は、早めに利用を検討して良いかもしれません。人との関係の悩みは多くの心理療法が対象としている相談です。おそらくスムーズなスタートを切りやすいのではないかと思います。

おわりに

 依存の悩みを抱えている方は、自力での解決を目指すことは非常に難しいと思います。なぜなら、その背景にあるものが孤独なので、寂しさや空虚感を埋める多大な時間と機会が必要になるからです。まずは、適切な人間関係を作ること、そのための相談を厭わないことが大切であると思います。 

参考

  • 松本俊彦(2009). 自傷行為の理解と援助, 日本評論社.
  • 松本俊彦(2018). 薬物依存症, ちくま新書.
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