はじめに

 我々は日頃から家族、友人、同僚など多くの他者と接しています。一人で生きていくことは現実的に難しく、そのためにコミュニティを形成するのは我々人間の知恵なのでしょう。しかし、その知恵が大きなストレスになることがあるのもまた事実です。

 学齢期のお子さんでも他児とぶつかることは日常的にありますし、社会人の転職も人間関係を理由としたものは上位に入ります。歴史を紐解けば、世界や世代を問わず、また中世の王侯貴族も例外なく人間関係の煩わしさを述べています。私たちが人間社会を形成する上でこの悩みは避けて通れないようです。

自分で気付くことの難しさ

 人間関係の悩みでは多くの場合、特定の誰かがストレスの原因になっていると自覚ができています。しかし、なぜそれがストレスなのか、なぜそんなに自分には堪えるのかということには目が向きにくいものです。それは、今まさに渦中にいるので客観的に考えることが難しいことと、人付き合いはこれまで自分が培ってきた習慣や考え方を前提として行うために、やりとりの場面での自分の課題に気付きにくいことなどが理由です。

 そこで、気付くためには第三者の存在が必要となります。しかし、日々接している第三者に話を持ちかけることは難しいものです。心配をかけたくない、叱られたくない、自分が情けないと感じてしまうなど、話題にする前の段階で抵抗が生じやすいからです。

 そのため、カウンセリングのような現実的な利害関係が発生しない第三者を挟んで解決の糸口を探すことがとても有効な方法になりますので、ご相談にいらっしゃる方は少なくありません。以下で3つのパターンに分けてカウンセリングでどのようなことを行っているのかをご紹介しようと思います。

人間関係の悩みを考えるカウンセリング

一方的に責められている場合

 近年、いじめブラック企業などの話題が散見されますが、大前提として相手が悪い場合はこちらが何かを改める必要はないはずです。しかし、問題となるのは相手の激しい加害に自分の心が持ち堪えられない状況に立たされている時です。この出来事によって生じた心の傷がその後の人生を大きく左右してしまうこともあります。

 理不尽な話ではありますが、自分の心が大きなダメージを受けないための防御の方法を考えていくことは必要になります。このような状況下では得てして視野が狭くなり自力で状況を変えることが難しくなりますので、客観的に判断してくれる他者が必要となります。

相手との相性が悪い場合

 人間ですので合う合わないはあります。そして、我々は小さい頃から自分と合う人間と一緒に過ごすことが多いはずです。しかし、社会人になったり結婚したりなど人生の節目には新しい人物との出会いが必ずあります。そこで生まれる関係は相性が悪くても終わりにできない人間関係であることが少なくありません。こちらが合わないなぁと思っている時は大抵相手もそう思っています。そんな二人の気持ちが絡み合って更に居心地が悪くなるという悪循環が起きることもあるでしょう。

 このような時にはカウンセリングの中で自分と相手のやりとりを詳細に振り返ることで関わり方のヒントが見えてくることがあります。どちらが悪いという話ではないので、お互いに変わることが必要ですが、相手を変えることの方が難しいので、まずは自分の関わり方を少しずつ変えていくことが先になります。

人間関係の悩みの原因が自分にある場合

 過去に自分が苦手だった人物と目の前の相手が重なってしまい落ち着いて話せない、相手の存在をどうも素直に受け入れ難い、別のことを考えてしまい相手と向かい合えない、などが悩みとなることがあります。このような場合は自分の中に引っ掛かる物があるために今の関係を十分に過ごせない状況に陥っています。そして、その原因は自分自身の過去の経験などに起因している場合があるので、このような場合は心の中を探索していく作業が必要となります。

 精神分析の視点を用いたカウンセリングなどを時間をかけて受けることが必須になるかと思われます。実は相手と母親が重なって上手に振る舞えていなかった、自分の心のある一面が関係を破壊的なものにしてしまっているなどの気付きが生じて改善へと向かうことが往々にしてあります。

関係を考えることは自分を見つめること

 人付き合いで悩むことはどうしても自分のある一面を見つめることになります。それが良い関係であれば新しい自分を発見する機会にもなります。しかし、関係が苦痛であると自分の見たくない面を見ることにもなるので、答えの出ない悩みの悪循環へと陥ってしまうことがあり、結果、自分の気持ちを閉ざしてしまうことも起こります。

 カウンセリングでは苦痛な関係性を維持して自分を損なうことのないよう、対処の方法を見つけることが一つの目的となります。しかし、この目的達成への過程が自分自身を見つめ直す時間にもなるためか、結果的に自身が一歩成長したり、新しい自分を見つける機会に繋がる方も多いようです。

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