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はじめに
最近、自尊感情や自己肯定感という言葉が浸透してきた気がします。インテーク面接でも「自尊感情がない」「自己肯定感が持てない」と悩みを説明してくださる方にもお会いするようになりました。どちらもself esteemという言葉の訳で同じことを指しているようなので、ここではまとめて自尊感情と呼ぶことにします。
自信の元になる自尊感情
自尊感情とは自分には価値があると思える感情を指す言葉です。その方の人生の歩みの中で作られていくもので、自分の行動や選択を保護者や友人に認められること、他者から大切にされた経験などを元にして自尊感情は獲得されていきます。
調べてみると自尊感情は「特性自尊感情」と「状態自尊感情」の2つに分けることができるそうです。前者は比較的安定して恒常的な自己への評価であり、後者は例えば仕事で失敗すると低下し成功すれば上がるというその時々の状況に左右されるものを指します。
自尊感情が高まれば万能的な気持ちとなり少しくらいの不安は弾き返すことができますが、自尊感情が低い時はちょっとのことで不安を感じて鬱々とした気分になりやすくなり、自尊感情が持てないままの生活が続けばうつ病などのメンタルヘルス上の不利益にもつながります。
自信がない人とは
「自信が持てない人」というのは特性自尊感情が低い人を指していると言って概ね間違いはないかと思います。つまり、自分の価値を認められない事情が長期間に渡って続いたために自分と相手を対等に位置付けることができない人です。
また、「自信がない」かどうかは自己評価と客観的な評価が一致しているかどうかが一つの基準になるかとも思います。自己評価が客観的な評価と比べて高すぎると自惚れた人ととかナルシストと周囲には言われますし、逆であれば今回のテーマである自信のない人となるわけです。
自信を持てない気持ちの固定
ここで一つ視点が出来ました。自信が持てない悩みを解決していくためには、自己評価と客観的評価が一致することが必要であるという考えです。そのためには、自分の行動や振る舞いが人からどのように見えているか、またはなぜ客観的な評価を指標とできなかったのかなどを知ることが必要になります。自信が持てない状態が続く理由には、どこか変化を拒む事情があるはずです。それは、意識的な拒絶であることもありますし、なんらかの事情が拒むことを強要していることもあるでしょう。必ずしも自分の責任ではなく、環境や人間関係などによって自信が持てない在り方を固定化されている可能性も考える必要があるかもしれません。
参考:心を知るために必要な姿勢
悩みによって生じる不利益
自信が持てないことで生じる苦痛は「人生の彩りが欠けてしまう苦しみ」と言えるのではないでしょうか。何をしていてもどこか構えてしまって積極的にチャレンジする機会を損なってしまうことや、人と深い関係を築きにくくなるなどの形で影響が現れます。
さらに自信が持てない事の苦しみは当人だけの問題ではありません。その方を大切に思っている人にも寂しい想いをさせてしまうことが往々にしてあります。大切な人のためにも自信をつけていかなければと考える方も少なくはないのではないでしょうか。
背景にある気持ち
抑うつ的な気持ちなど
いじめや被害体験、あるいはその他の事情であっても深く傷つき気持ちが落ち込んでいる時には自信を持つことは難しいはずです。先程の状態自尊感情のように一時的なものであれば良いのですが、慢性的な自信のなさとして現れているのであれば、抑うつ気分の解消や社会活動への参加などを通じて自信を取り戻していくことになるのかもしれません。この場合、抑うつ的になったエピソードがあると思いますので、このことを扱っていくことは必要になるでしょう。
対人緊張や社交不安
自信の持てなさは対人場面や社交場面での高い緊張を伴う方もいらっしゃるでしょう。どちらが先かは分かりませんが、人間関係での失敗は自分が人よりも劣っているのではないかという連想につながることもありますので、自分を大切にする気持ちを損なうことに十分な理由となります。先程の抑うつ的な気持ちのエピソードとは異なり、自分でも理由がはっきりと分からないことも少なくないので、まずは緊張の意味を知ることから始めることが必要になるかもしれませんし、あとで触れている成功体験を積むことで自信を育んでいく機会を作ることも大切でしょう。
参考:社交不安の悩み
過度に抑圧された環境に置かれた経験
虐待やハラスメントの被害を受けると、自尊感情が育たなかったり、重篤な損傷を受けることになります。このような時は恐怖心や警戒心と共に自信の持てなさが強く見られることがあります。このような背景から生じる場合は、「あなたには価値がない」と言われ続ける洗脳に近い側面を持つことが特徴でしょう。
自信が持てないことが相手へのサインになっている。
特に子どもの場合に多いかもしれませんが、自信を持てずに困っていると周囲が助けてくれることがあります。自信を持てない自分を見せることで他者からの優しさを享受できるため、自信を持てない行動を見せることが習慣になってしまうのです。これはご本人の甘えの問題だけではなく、すぐに手助けをしてしまう周囲の反応によって、やりとりがパターン化していることも考えられますので、意識的に接し方や環境を変えていくことが双方に求められます。
カウンセリングでは
自信が持てない人のカウンセリングでは、上記のように自己評価と客観的な評価の一致を目指すことは一つの目標となり得ます。その過程で自分の気持ちを表現する安心感を得たり、認められる体験を重ねる時間を過ごすことになるのです。とは言いつつも、自信が持てないという悩みは、これまで概観したように様々な背景があります。しかし、カウンセリングの視点は共通した根のようなものがあるようにも思います。カウンセリングの中で生じていることを、いくつかご紹介をしたいと思います。
認められる体験を積む
自信が持てないことで感じている苦痛や、自分を前面に出せない気持ちを話題にしていきます。おそらく、多くのカウンセラーがその話に理解を示してくれるはずです。自分の気持ちが他者と共有されることは肯定される体験となり、この体験が自尊感情を育むことになります。そして以前よりも主体的に行動したり考えることにつながるものです。
自信を持つためのスモールステップを考える
カウンセラーから少し勇気がいる目標を提案することがあり、その目標を乗り越えることを繰り返して自信を持つ感覚を掴んでいきます。どんな目標が適切であるかを選ぶことは難しく、あまりに難しければ失敗につながってさらに自信をなくすことになりかねません。そのため、目標設定をどのように行うかをカウンセリングの時間に話し合って決めています。
考え方の傾向を知る
認知行動療法の手法などによって、実際の自分の行動を多面的に捉えていくことで自分の考え方を知り、自己評価と客観的な評価との間のズレをなくしていく時間を持つことになるでしょう。強い思い込みや凝り固まった考え方をほぐすイメージでしょうか。
自分の歴史を振り返る
先にも述べましたが、自信が持てないことには多かれ少なかれ、その方の歴史が影響しています。保護者の関わり方がという話でなく、友人関係の影響や生来の性格に由来するものであったりと、原因は様々です。
自信が持てない悩みがスモールステップの目標設定や考え方の変化を探るだけでは解消されない場合には、自分の歴史を振り返る時間が必要になるでしょう。そこには、自己主張を阻むトラウマティックな体験や、自分を抑制する事情が見つかることがあるのです。中には凄惨な歴史を振り返り強い苦痛を感じられる方もいらっしゃるので、話の負担が重すぎる時はカウンセラーに遠慮せずに伝えましょう。
参考
- 中島 義明 (監修), 新・心理学の基礎知識, 有斐閣ブックス, 2005.