はじめに

 カウンセリングでお話ししたいことの中には自分が辛いということだけでなく、家族のことを相談したいという内容もあります。あるいは自分の問題を考えることの背景に家族との関係が強く関係していることも少なくありません。このような事情から、自分の家族をカウンセリングに同席させて話をしたいというご希望を頂くことがあります。そこで今回はカウンセリングに家族を同席させたいことが持つ意味を考えてみたいと思います。

子どものこと

 さて、多く頂くケースが我が子のことを相談している時に保護者の立場から、子どもをカウンセリングに連れてくるので話をして欲しいというご相談です。ここに求められているのは心理専門職の視点から見て我が子がどのような状態にあるかを見定めてほしいということであったり、家庭で話をしていてもなかなか進展が見られないので変わりに我が子の話を聞いてほしいのどちらかであることが多いかと思います。特に学校の学習のことや不登校の相談などではご本人が来室できるのであればその方が良いでしょう。

 しかし、子どもを同席しての面接も中学生くらいから段々と難しくなります。この年代は親の前で素直に心を開くことが難しい時期です。ある意味では健康な成長なので良いのですが、こと一緒に話をしたいという大人側の期待を叶えることは難しくなってしまいます。また、秘密を作りたがる年齢でもあるため、保護者が同席する中だと本心を語ってくれないことも少なくありません。(参考:子どもの発達~中学校~)。

 お子さんが同席してのお話では、保護者の方もカウンセラーがなんとか子どもの心を開いてくれるのではと思うことが多いようですが、この期待が叶うのはせいぜい小学生くらいまででしょう。中学生以降はカウンセラーに我が子を紹介する程度に留めて、我が子とカウンセラーとの1対1の形式を整えるように努めた方が良いように思います。

夫婦のこと

 次に夫婦関係のことで相談したいというお話を頂くこともあります。ここには相手の態度を改めてほしいという相談や、パートナーの精神疾患を心配しているなどの相談が多いでしょう。旦那さんか奥さんが相談に来ていて、途中からパートナーを連れてきたいという方が多いです。

 さて、このことは事態を変化する目的では必要ですが、一方で非常に関係破壊的な側面を持っています。夫婦は全てをぶつけ合うだけでなく、時に相手に配慮しながら押し黙るという選択をすることが必要な場合もあります。親子と異なり全てをツーカーにしても維持できる関係は稀です。特にカウンセリングでは個人の要望や不満という欲を扱います。それを相手に伝えることは、ここまでお互いに配慮し譲歩しあっていたバランスを崩すことになりかねません。パートナーの同席を考える前に、その後の夫婦関係がどのように変化するかの予想をしっかりと話し合っておいた方が良いでしょう。

自分の相談で家族を呼びたい

 さて、上記の例は最初から他人のことを相談していました。次に自分の相談をしている中で家族のことを相談したいと思い始めた場合を考えようと思います。

自分の相談で家族を呼びたいのは何故か

 カウンセリングの基本的なスタンスは自分のことを考えて自己理解を深める、そして気付いた理解によってより自分らしく生きられるということです。このスタンスに立つのであれば、そもそも家族を呼ぶという動きは生じないことになります。家族を同席して自己理解を深めていくという視点はそもそもカウンセリング的ではないのです。にも関わらず、家族を呼びたいと考えたのは何故か。ここが重要な点です。

依存的な気持ち

 まず一つ考えられるのが、自分で自分の話をして向かい合うことの負担に耐えかねているという状況が考えられます。そのため、家族に同席してもらい状況を一緒に考えて欲しいとか、代わりにカウンセラーと話して欲しいという依存的な気持ちが活性化されていると考えられます。この時のイメージはどこか子どもが上手く伝えられなくて保護者に代弁して欲しいという状況に似ています。この気持ちが悪いのではなく、そういう動きが何故起こっているのかを考えていくことが大切です。

カウンセラーへの不満から

 次にカウンセラーに対してのメッセージを含んでいることも考えられます。カウンセラーとこれ以上話したくない。二人で話をするのが苦痛だなどの気持ちから、家族に来てもらい二人の関係を避けることが考えられます。多くの場合はカウンセリングが煮詰まっている状況で相談に来ても進展が見られず、このような時間はそもそも意味があるのか?という疑問が湧いていることでしょう。そんな状況を打破するために家族に来てもらうという動きです。先程の家族に対しての依存的な気持ちとも関連しています。

 また、カウンセラーに家族を見せることで自分の置かれている状況を正確に理解して欲しいということもあるでしょう。いずれにせよ、カウンセラーに対する不満が背景にあることが多いのでないでしょうか。

万能的な解決を求めて

 自分がとても辛くて、その原因は家族にあると思う。連れてくるので話をして欲しいというのであれば、それはカウンセラーが解決してくれるはずという万能的な期待です。そこにあるものはカウンセラーに理想的な保護者を投影し、解決をしてもらう過程を通して自身の過去を代理的に修正したいという気持ちが働いていることも考えられます。この時はおそらく自身の過去の家族関係などがカウンセリングの核となっている時でしょう。

家族の申し出を断れなかった

 ここまでとは逆に、家族の方からカウンセリングに同席させて欲しいと強く要望を受けて断れなかった場合もあると思います。もし、自分と家族の間で話を解決することが難しいようであれば、カウンセラーに伝えて判断を聞いても良いとは思います。家族からしても、自分の身内が話している相手がどんな人物か心配だというのは当然の気持ちです。ただし、家族の同席したいという申し出を受け入れざるを得なかった心情については、その後話題にしていくことが必要です。

家族が同席することの破壊的な側面

 もしカウンセリングで自身の心と向き合いたいと考えている場合、家族がカウンセリングに参加することで、話の内容は途端に現実的なものとなり、心の探索という目的から離れてしまうことになります。そして、カウンセリングの場が三者の社交場になるので、自分の心を探るためのスペースという機能が失われてしまうことには留意しておく必要があります。

ガイダンスという視点

 上記とは別にカウンセリングの目的が自身の心と向き合うことではなく、現実的な対処を考えたいということであれば家族同席も起こり得ます。自分の心の状況を伝えて欲しいとか、今後の家庭の方向を考えたいなどの目的でしょうか。しかし、最初からこのような目的が明確である場合は、私設相談室でカウンセリングを行う以前の段階で医療や行政・弁護士事務所などの機関を利用されることが多いようにも思います。 

家族療法という選択

 さて、ここまで長々と個人心理療法の場で生じる家族同席の意味を見てきましたが、申し上げたとおり、個人の心を見るという目的では家族同席が大きな成果を挙げることはあまりないように思います。しかし、家族療法では、最初から家族という単位に目を向けて問題の解決を図っています。家族の中で悩み苦しんでいる人がいれば、それは家族の問題が背景にあり、家族のうちの一人が一身に問題を背負っているという考え方です。この場合は家族の問題を考えるために、家族全員が集まって話をすることになります。

まちだカウンセリングでは

 当ルームでは基本的に家族同席はご遠慮頂いております。それは、当ルームが個人心理療法を提供する場であり、先に挙げたとおり、家族が同席することでカウンセリングの向きが途端に現実志向へと移ってしまうからです。また、室内の手狭さという切ない事情もあります。それでも、家族でいらっしゃることを希望する方もいます。その場合は、各々に別のカウンセラーが付き、それぞれのカウンセリングを行うという形をとっています。しかし、日程の調整やカウンセラーの人数の関係で必ずしも希望通りにいく訳ではありません。いつか、家族療法などの形式もご提供できるようにしたいと考えていますが、まだ先の話になりそうです。

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